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周りにいたお客さんたちもまさか一緒に踊っていた僕がターゲットだったなんて気づくわけもなく。
「騙されたー」と笑っている。
いや、僕も笑いたい。
笑いたいけど、笑顔が引きつる。
ハッピーバースデーの曲が終わる頃、ようやくこのサプライズの仕掛け人が現れた。
「やっぱり……」
少し離れた場所からやってきたのは、彼女のあやめと妹の二人だった。
「ハッピーバースデー! お兄ちゃん」
「ハッピーバースデー。ふふふ、驚いた?」
驚いたなんてもんじゃない。
恥ずかしくて死にそうだ。
「せっかくの誕生日ですもの。何か驚かせようと思って」
あやめの言葉に妹が「私が考えたんだよー」と自慢げに語る。
元凶は貴様か。
「あ、ありがとう……」
「でも面白かったー! まさかダンサーと一緒に踊り出すなんて」
「ふふふ、ほんとに。予想外だったわ」
ああ、恥ずかしい!
めっちゃ恥ずかしい!
一部始終を見られてたなんて!
「で、でも……嬉しいけど、たかが誕生日にここまでは……」
正直、ショッピングモールに来てるお客さんの邪魔でしかない。
しかし僕の予想に反してそこら中から拍手が巻き起こっていた。
「誕生日おめでとー!」
「いいサプライズプレゼントじゃないかー!」
「羨ましいぞー」
まさか見ず知らずの人たちから祝福されるとは。
思わずぺこぺこと頭を下げる。
「ご協力くださった皆様、ありがとうございました」
あやめもダンサーやバイオリニストたちに頭を下げる。
みんな笑いながら手を振ってやりきった感のいい顔をしていた。
実はこのイオネモールタウンの支配人も「盛り上がるなら」と許可を出していたらしく、知らなかったのは僕と一般のお客さんのみ。
スタッフもみんなグルになっていたと知ったのはそれからあとのことだった。
今度は逆に僕が彼女にサプライズしてやろうと決心したのは言うまでもない。
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