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 途方に暮れて沈み込む芙海を、静岡にいる姉が電話口で重ねて説得した。  生まれ来る我が子の無事を第一に考えてあげるべき、それをあなたの夫や両親たちも願うはず。そちらのことは私たちも一緒に対処するから、あなたはとにかくこちらにいらっしゃい。  芙海は、行方知れずの夫や親兄弟のことが気懸りで悩み抜いたが、結局、富士山麓にあるこの街に移ることを決断した。  そして、迎えに来てくれた姉夫婦の車でこの地に移ってきて間もなく生まれたのが悠希だった。それは、予定日より2週間以上早い、3月も終わり近い日のことだった。  悠希には、父は事故で亡くなったとしか伝えておらず、津波に流され、今も行方不明のままであることを悠希は知らない。  しかし、悠希が話して聞かせてくれた夢は、津波に呑まれた夫の記憶そのもののような気がしてならなかった。  先生はそれを聞いて、あることを提案した。
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