3 石巻へ

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3 石巻へ

 その年の11月、芙海は悠希を連れて、東北新幹線に乗って仙台に向かった。  目的地は、仙台からさらに在来線で1時間ほど先に行った石巻だった。そこは、かつて夫と暮らした港町だった。そして、最愛の夫を失った場所でもあった。  震災の後、報道や被災地の自治体から届けられる資料などで、復興の様子はある程度知識として得ていた。  しかし、肝心の夫の行方に関する情報は、その後も何も届けられなかった。  両親と兄は既に遺体で発見され、今は姉夫婦の手で静岡の墓地に埋葬されている。それはそれで、縁の薄いこの土地で安らかに眠れるかとの心配も内心あった芙海だったが、それ以上の提案も行動もできる余裕のない自分には、それを受け入れるしかないと認めざるを得なかった。  それより何より、夫が今も寂しい海の中を、帰ることもかなわず漂っているのではないかと思うと、石巻にいればもっと夫のことを見つける術もあったかもしれないのにと、夫を置き去りにして故郷を離れたことが悔やまれてならなかった。
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