1 修学旅行

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 先生も、悠希の横に並んで、一緒に視線を海のかなたに向けた。  そうやって数分が経ち、悠希がつぶやいた。 「海って、静かでゆったりとしていて、とても大きくて、優しそうに見える。もっと、冷たくて、暗くて、怖いものだと思ってたから、何だか拍子抜けしたような変な気分。でも、本当はこんなままではないのかもと、隠れた姿がどこかに出てこないか見ていた」 「確かに海は荒れて大変なときもあって、人の命を奪う恐ろしい魔物になることもある。でも、それは嵐や地震といった、他の強い力が海をそうさせるからで、海そのものは、地球上のあらゆる命を育んできた水を湛えたかけがえのない存在だ。今日の海は、まさにそうした命のゆりかごのような穏やかな顔を見せている。そんな海の優しさを直に感じることができたのは、葉山にとって、この修学旅行の大きな成果になるんじゃないか」  先生の言葉に、悠希は小さく頷いた。 「さて、そろそろ昼食の時間だ。みんなのところに戻らないか」  時計を見せながらそう促す先生に、悠希は「はい」と答えると、先生とともに昼食の会場に向かった。
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