2 作文

2/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 それは、悠希が5年生のときに書いた作文のことだった。  先生は、5年生のときから悠希のいるクラスの担任を受け持っていた。  先生は、クラスの子供たちに『夢』というテーマで作文を書かせた。それは、将来の夢について書くようにというものだった。  ところが、悠希は将来の夢ではなく、同じ夢を幾度となく見続けている、ということを書いた。その内容が、まさに水に溺れるというものだった。  渦巻く暗い水の中で、抵抗できない葉っぱのように押し流される自分。  少し息苦しいが、それよりも、水の向こうの景色が頭の中を巡り、それに心が奪われる。  それは、家の軒先で人々が談笑する住宅街、高い煙突のある工場らしき建物、それに遠くに霞む丘陵のような山の連なり――  先生はそれを読んで、悠希が心の奥に深いトラウマを抱えているのではないか、もしかするとその心の奥底にあるものが、悠希のこれまでの、あるいはこの先の人生を左右する一大事に関係することで、本人がそのことを心のどこかで感じ取って、将来のことを考えたときに、避けて通れなかったのかもしれない、と思った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!