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不穏な空気が流れる中、俺は顔を引き攣らせて声を捻り出した。
「は、初めまして大輔さん。私が恵里の父親の啓介です」
「こ、こちらこそ初めまして、お会いできて嬉しいです。俊二のことを宜しくお願い致します」
「そちらもお母様はいらっしゃらないのですか?」
「妻はイギリスに出張していて、どうしても来られなくて。申し訳なく思います」
イギリスに出張なんて絶対に嘘だろ。大事な息子の結婚式に出ない母親がいるわけがない。どうせ俊二も金がないのだろう。
代行屋の笹垣勲が恵里から母親がいない理由について聞いてニヤリとしている。おまえが思っている通りだ。こっちも金がないんだ。
しかしどうするお互い代行屋を雇っているとは。俊二と恵里の顔を見ても、自分が代行屋を雇っていることはバレてないと思っているようだ。
俺は笹垣に目配せする。相手も周りに気づかれないように小さく頷いた。
「ちょっと大輔さんと二人で話がしたい。恵里も俊二君と話し合っていなさい」
「私も啓介さんと話したいと思っていた所だ。今後のことを話し合おう」
俺は笹垣を連れて式場を出た。お互い周りに人がいないことを確認してようやく声を出した。
「おい、笹垣。どういうつもりだ」
「それはこっちの台詞だ。母親が入院中なんて嘘だろ?」
「おまえも母親がイギリスに出張とか無理がある。嘘に決まってる」
「仕方ないだろ。俊二は金がないんだ」
「それはこっちも同じだ」
相手の顔を見てお互い笑みが溢れる。こんなことは初めてだ。代行屋のバッティングなんて。俺は額に手を当てて考えながら話した。
「今のところ恵里も俊二も相手の代行屋が父親を演じて騙されてることに気づいてない」
「私も二人の顔を見てそう思った」
バレていなければこの事態を切り抜けられるだろうか。
「ここは依頼料のために手を結ばないか?」
「結婚式が終わるまでお互い父親を演じるのか?」
「そうするしかないだろ」
「わかった。その案に乗った」
俺と笹垣が式場に戻ると今までいなかった女性が俊二の隣に立っていた。俊二が眉間に皺を寄せて全員に紹介した。
「僕の母親がイギリスから今日戻ってきました」
「えっ」
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