6.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフのダンジョン入り

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6.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフのダンジョン入り

 ダンジョンの入り口はギルドによってかなり整備されている。地面もしっかり踏み固められ、道の壁の上の方には一定の間隔でランプが設置されていた。レイモンドさんがポーチから何かの葉っぱを取り出し、折りたたんで口に入れて奥歯で噛む。そして、掌をかざしてふぅ、と息を噴くと、緑色の炎がトカゲの形になって、次々とランプに飛んでいき、緑の明かりを灯らせた。エルフの精霊魔法だ……。 「この緑の炎が、現在ダンジョンマッピング中だという印です。帰りの目印にもなるので、万が一迷ったら道しるべにしてくださいね」 「わかりました……うわー、綺麗」  初めて見る色の炎に見とれるわたしに、レイモンドさんは「そんなことはないように気をつけましょうね」と釘を刺す。  ダンジョンの一階の浅い所くらいなら私も何度か来たことがある。大ネズミを駆除したり、煙草の材料になるコケなどを取ってきたりする依頼で。でもダンジョンマッピング師がいる時に入ったのは初めてだったんだな、なんてことを思った。時々出てくるネズミやムカデを倒しながらわたしたちはダンジョン一階を進む。 「次の階の入り口、多分罠が復活してると思うからあたしが先に入るよ」  一階から地下二階へは階段が設置されていた。これもギルドが後から作ったものだ。地図と実際のダンジョン穴を見比べながら進んでいたリィナさんが小石を小部屋の中に投げると、入り口の地面の両側から何か黄色い蒸気のようなものが噴き出す。 「鼻と口袖で塞いで。レイモンドは風よろしく」  リィナさんの指示にあわてて袖で口元を覆う。レイモンドさんは何かわたしにはわからない言葉で何もない空中になにか話しかけた。すると部屋の中に小さなつむじ風が起こり、黄色い蒸気は吹き飛ばされて天井の穴に吸い込まれていった。 「ここの穴、塞いでも何度でも復活するんだよ」  下に降りるのは初めてだ。地下二階からもう罠とかあるんだ……。 「まだ吸い込むとちょっと咳がとまらなくなるくらいの罠だけどなぁ。体力を消耗させられてこれ嫌なんだよなぁ」  そういえばギルドで発行してる地図にもそんなこと書いてあった気がする。こうやってダンジョンマッピング師は検証して記入してるんだな。すごい仕事だと思う。 「宝箱の罠はランダムで変わるので、その都度冒険者に頑張ってもらうしかないね。ちょっと知恵のあるモンスターが空の箱に何か入れて、ついでに罠を仕掛けていくんだよ。嫌らしいったらないよ」 「宝箱の中身が復活するってどういうことかと思ってたけど、そういう仕組みだったんですね」  皆さんにいろいろ教えてもらいながら、わたしはダンジョンを進む。通路に出るたびに、レイモンドさんが明かりを緑色に変えていった。 「通路の奥、何かいますね」 「ん~……うわ、一つ目スライムだ。嫌だねえ」 「腹の中になんか持ってるかもしんねえし、倒してくるわぁ」  廊下の向こうに何かもぞもぞ動いているものがいるのを見つけ、ドーソンさんがのしのし近づいていく。後ろを追いかけていくと、ぎょろぎょろとした目玉がついた犬ぐらいの大きさの青いゼリー状のモンスターが地面を這っていた。 「おらっ!」  ドーソンさんが一体を剣で突き刺すと、もう一体が何か液体のようなものを吐く。ドーソンさんが身をよじってそれを躱すと、液体は壁に当たってじゅっと音を立てた。酸だ。 「シルキィ君!」 「えっ!?」  レイモンドさんに勢いよく手を引っ張られてつんのめる。後ろを何かが通過していく気配がした。目で追うと、さっきドーソンさんに浴びせられたのと同じ液体が地面ではじけて音を立てていた。 「後ろにも来てたんかっ! このっ!」  リィナさんがダガーで突き刺したスライムは、やや明るい黄色をしている。 「シルキィ君も刺して刺して!」  レイモンドさんも加勢しているので、わたしも持って来ていたダガーで三人がかりで突き刺してそれを倒した。 「賢い個体だよ。天井伝って隠れてたんだね」 「シルキィ君、怪我は?」 「ありません、あ、ありがとうございます」  動かなくなったスライムをリィナさんが解体している。わたしは一つ目スライムを倒したのは初めてなので、ドキドキが止まらなくて深呼吸した。 「やっぱり誰かの財布食ってたわ。そっちは?」 「こっちも、硬貨何枚か食ってるね。もらってこ」 「酸袋破らないように気を付けてくださいね」 「わかってるよ、あたしを誰だと思ってるんだい」  リィナさんはスライムの体の中から出て来た硬貨を布でくるんで皮袋に入れる。ドーソンさんがまとめてカバンに入れた。 「宝箱は無視ですが、ドロップ品はこうやって回収します。シルキィ君もコケとか採取していいですからね」 「はい……ああ、びっくりした……」 「ちょっと息を整えましょうね。ほら、水を飲んで」  落ち着いていない状態で進むとミスが増えるという理由で、レイモンド班では戦闘の後は一口水を飲むようにしているのだそうで、みんなで一口ずつ水を飲んでから先に進んだ。 「目玉とかも売れるんだけどなぁ、日持ちしないから、まああれは後から来た冒険者に持ってってもらうとするかぁ」 「目玉が売れるんですか? 何のために?」 「金持ちの店で料理の材料にするらしいぞぉ」 「い、いやっ」 「女の子からかうんじゃないよドーソン!」 「行きましょう。まだ先は長いですよ」  話しながら先に行くと、開けた穴の入り口についた。リィナさんが手を上げて私たちを押しとどめる。 「歩きモグラが四体いる。ちょっと多いね。一人一体と行きたいところだけど、お嬢ちゃんは戦えるのかい?」  歩きモグラは、子供ぐらいの大きさの二足歩行のモグラだ。大きな爪がちょっと怖いモンスター。穴を掘って潜られるのもやっかい。 「か、囲まれたらまずいけど、一匹なら多分、なんとか!」 「オッケー。ヤバかったらすぐ助け求めるんだよ。それじゃ、行くよ!」  レイモンドさんが心配そうにこっちをちらっと見たが、わたしもみんなの役に立ちたい。ダガーを構えて、飛び込んだ。 「えいっ!」  わたしは歩きモグラの一匹に手をかざす。幻惑魔法を発動するための行動だ。手から桃色の光がゆらゆら立ち昇り、形になる。その間にも歩きモグラは地面を掘り始め、地面に姿を消したところを見計らって移動するわたし。さっきまでわたしの立っていた所に、私そっくりの白髪の女の子が立っている。それはわたしが魔法で出した幻惑だ。  ブン、ブン、ブンッ!!  地面から飛び出した歩きモグラは爪でその幻惑を攻撃するが、幻惑のためまったく効いていない。効いていないけど、攻撃を受けると口から血を噴いて見えるようにしているので、効いてるのに倒れないように見える。幻惑に向けて攻撃を続ける歩きモグラを、私は背後からダガーで刺して倒した。 「シルキィ君、大丈夫ですか?」  自分が受け持っていたモグラを始末したレイモンドさんが慌ててこっちに駆けてくる。 「大丈夫です、倒せましたぁ」 「おわ~、今のが幻惑魔法かよぉ。俺初めて見たわ」 「なんかちょっと寝覚めが悪い魔法だねぇ、でもこの先お世話になりそうかもね」  他の二人も戦闘を終えてこちらに集まってくる。特に問題なく倒したようだった。わたしは足手まといにならないで済んで、胸をなでおろした。 「一瞬シルキィ君が攻撃を受けているのかと思って焦りました。けどよく見たらちょっと違うのでホッとしましたが。本当に無理はしないでくださいね」  レイモンドさんがわたしの頬に手を当てて見つめてくるので、お腹の淫紋がちょっと疼いた。
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