愚痴

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 環奈とは実家が近かったこともあって、小学校に上がると当たり前のように登下校を共にした。素直で明るくてノリが良くて、クラスでも人気者だった環奈が突然女らしくなったのは、中三の夏だった。  いつものように一緒に下校していると、環奈が言った。 「三組の石井君に、付き合ってって言われた」 「へえ……」  自分の心がざわついた理由に初めて気付いた瞬間だった。   「どう思う?」 「え? ああ……石井はいい奴だと思う」 「じゃあ付き合っちゃおうかな」  環奈から向けられた同意を求めるような視線を躱し、「いいんじゃねえの」と基樹は素っ気なく返事した。  その翌々日から、基樹が一人で登下校することになったのは、環奈が石井と付き合うことになったからだ。  学校に行けば同じクラスの環奈とは顔を合わすのだが、何年も当たり前だった時間が突然なくなると、心にぽっかり穴が開いたような気持ちになった。  それから基樹の片思いが始まり、環奈の愚痴が始まった。
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