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ショッピングモールの一番奥の店が見えてきた。その前でUターンしてもう一度、と向きを変えようとした時、聞きなれた声がした。
「あれ?夕暮さん?」
須藤さんだった。台車の上には小さな箱や大きめの段ボール箱がいくつも積まれていた。
「今日も買い物?」
じりじりと台車を押しこの場に止まっていたくない雰囲気をにじませた事よりも、今日も、という一言が私の体も心もぴたりと止めた。
「今日も・・って?」
なんとなく、言わんとしている事はわかったが、真の意味は彼の口から聞きたかった。
「昨日も来てたでしょ?モールの中歩いてる夕暮さんを見かけたんだ。離れてたから声かけなかったけど。おとといは車の中から見えたんだよ。荷物積んでここを出てすぐ、信号で止まった時に横断歩道渡ってるのを・・」
須藤さんの顔は何かが欠けてしまったような平たい表情。何が欠けているのか・・笑顔だ。
いつどんな時でも口元は笑っているのに、今の須藤さんはまるで別人に見える。
少し雰囲気の悪い中、私は努めて明るく振る舞う。
「そっか、見られてたんだぁ。そう、昨日もおとといもここに来たの、須藤さんに会えるかなぁって思って。ほら、この前言ってたじゃないですか、馬場さんとたまにバッタリ会うって。だから私も会えるかな、なんて」
肩をすくめてにっこり笑ってみても、須藤さんの表情は変わらない。さらに暗さを増す目元を見て呆然としている私に、須藤さんは早口で、
「ここに立ち止って話できないからさ、ちょっと入り口横のベンチで待っててくれる?」それだけ言うとすぐに台車を押し、3軒先のお店の前に台車を止めて入っていった。
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