必要のない重ね着

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 しばらくその場に突っ立ったまま、台車を押し店に入りを繰り返す須藤さんの後姿を見ていた。  この後、少しだろうが時間を割いてくれる須藤さんの気持ちは私と同じ種類ではない事は、あの顔を見れば明らかだ。  怒られるのかな、嫌われちゃうのかな。不安と恐怖のようなものさえ感じながら、須藤さんの姿が見えなくなってから私は歩き出した。  メインの出入り口横にいくつかのベンチと自販機が並んでいる。  ベンチには誰も座っていない。きっとドアが開閉するたびに冷たい空気が入ってくるからだろう。  一番端っこに腰をおろし、出たり入ったりする人達をうつろな目で眺めながら須藤さんが来るのを待った。  その間、冷たい空気を冷たいと感じないほど、私はすべての感覚を閉ざしていた。
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