必要のない重ね着

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「今の夕暮さんは確かにかわいいよ。だけど・・ストーカーみたいになっちゃったらみんな引いちゃうよ。でもそうはならないってオレは思ってる。だってあの頃のキミは心根の優しい女の子だったじゃないか」  心根が優しい。人としてなによりも大事な事。  その時、看護師の千草さんのことを思い出した。かわいい顔で酷い事して、意地悪く口を吊り上げて笑った時の彼女をかわいい顔と思えただろうか。 そういう事なんだ、ともう一度頷いた。 「私は・・無くてもかまわない物を身にまとって、その姿が理想の姿なんだって思い込んで欲張って・・」  結局は・・昔とたいして変わらなかった。  かわいい顔になればすべてが変わる、と思っていたのはまったくの・・ 思い込みだった・・ 「じゃあそろそろ行くね」  唐突に聞こえた須藤さんの声に顔をあげる。目を合わせると、いつもの笑顔が戻っていた。 「そんなに思いつめることはないよ、だって何も悪い事なんかしてないんだし。ありのままの夕暮さんでいればいいんだから、ね?」  また明日ね、と手を振り小走りで去っていく須藤さんの後姿が見えなくなるまでその場に立ちつくした。
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