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「お茶をお淹れしました。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
あゆみが職場に到着したばかりの俺にお茶を運んでくれる。毎朝のことだ。特に当番制という訳ではない。だが、毎朝職場に早く出社し、様々な準備を済ませて社員全員にお茶やコーヒーを出してくれる。我が社は社員10名程度の小さな事務所である。そして俺と西岡という男性2名、あゆみとレナという女性2名が4月から新人として新たに加わった。新人ではあるが、物事をテキパキとこなすあゆみは早くも我が社のアイドル的存在になっていった。
ゴールデンウィーク前に俺達は、新人同士で決起会を発足することになった。決起会とは名ばかりの飲み会であり、俺があゆみに近づき仲良くなりたいが為に招集した。本当はあゆみと二人っきりで飲みたかったのだが、変な噂が流れたりするとヤバいので他2名にも声をかけた。
「皆さん、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。乾杯!」
俺が乾杯の音頭を取り、案の定俺とあゆみの二人で盛り上がり、元々口数の少ないレナと西岡は大人しく飲食をする、という状況であった。会食後、俺が
「皆、カラオケに行きませんか?」
と言うとあゆみは
「佐藤さん、歌うまいんですか?」
と俺に尋ねてきた。俺は調子に乗り
「ヘタじゃないっす。」
と言うとあゆみだけはついてきてくれた。他の二人は異口同音に
「いや、今日は帰ります。お疲れ様でした。」
と言うとそそくさと帰ってしまった。
「えー、あの二人ツレないですね。」
あゆみが言うと俺は本心を言った。
「いや、ブスとムッツリはいらないっす。俺はあゆみさんだけがいればいいので。あの二人は仕方なく数合わせの為に誘っただけですから。帰ってくれて嬉しいっす。意外と空気読めるんだなって。ま、ガチで早く帰りたかっただけだと思うけど。」
「えー、そんな風に思ってくれてたんですね。嬉しい!」
そう言うとあゆみは腕を組んできた。あゆみの豊かな胸が肘に当たり心地よい。
「どこかおすすめのカラオケスポットあります?」
あゆみが胸を押し付けながら聞いてくる。俺は
調子に乗り、酔った勢いで言う。
「カラオケ付きのホテル、行きます?」
あゆみは一瞬真顔になり
「結婚前提でお付き合いしていただけるのであれば・・・。」
その30分後、俺達は裸で抱き合っていた。
「一瞬になろうね。」
と言いながら・・。
その後俺達は結婚を前提に付き合いを始めた。と同時に西岡とレナも付き合っている、という噂が流れた。本人達が公表した。俺達も付き合いを公表しようか迷ったが、レナとは違いあゆみは職場のマドンナ的存在である。新人の俺がモノにしたとは言えなかった。現に何人かの男性社員にプライベートで食事に誘われた、というようなことをあゆみから聞かされていた。その度に、今は恋愛なんて考えられない、仕事が恋人だ、というようなことを言っていたらしい。何だか俺達は芸能人みたいな付き合い方をしている、と密かにほくそ笑んでいた。
その後俺達は密かに結婚した。1年ほど過ぎ去った頃、俺は心身共に疲れ果て独り言が多くなった。
「騙された!あゆみのヤツ、家事もやらずに仕事もせずに俺の給料を食いつぶしやがって。しかも結婚した途端に俺に指1本触れさせねぇなんてありえねー。こうなったらもう離婚してやる!」
一方、あゆみも心中穏やかではなかった。
「騙された!ウチの旦那って会社のお偉いさんとは無関係だったんじゃん。私、旦那が社長の親戚だとばかり思って付き合ってきたのに。人生の勝ち組になれる筈だったのに。社長の親戚は西岡っちの方だったのね。ホント、マサカだわ。旦那、私と離婚してくれないかなぁ。そしたら慰謝料たんまり取って遊んで暮らしてやるのに。にしても西岡っちと別れなきゃ良かったわ。」
西岡の家では、裸で寝ているレナの肉体を弄びながらほくそ笑む西岡の姿があった。
「それにしても、この職場であゆみと一緒になるとはな。本人もやりづらかっただろうな。職場で俺と目を合わせなかったし。でも学生時代に同棲していた時のあゆみは最悪だった。家事はやらないしわがままで。職場ではネコをかぶりやがって。佐藤氏も騙された、って思うだろうよ、きっと。」
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