タビのはじまり

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タビのはじまり

頭に、隕石が直撃した。 頭蓋骨がパッカーンと2等分され、首もありえない方向に折れ曲がって……、はいないな。 いやまあ、冷静に考えて、それはさすがに言い過ぎ た。 本当に隕石なら、私はもうとっくに死んでいるはずだ。 とはいえ、何か重いものが空から降ってきて、頭に強い衝撃を与えたことは確かだった。 その証拠に、脳みそがまだくらくらと揺れている。 一体、何が落下してきたのか。 ふらふらしながら足元を確認すると、そこには1冊の分厚い本が落ちていた。 鮮やかなぶどう色の表紙が砂埃で汚れ、やや黄色く変色している。 私はそれを手に取り、着ていたローブの端で砂を拭った。 表紙には触り心地の良い上質な紙が使用され、さらに『基礎魔法学Ω』と金色の文字も施されている。 これは多分、学校の教科書だ。 また表紙の装飾、装丁から考えると、おそらくいいとこの学校だろう。 私はページをパラパラとめくり、中身を確認する。 状態は良い、……というか開いた形跡すらない。 ほぼ新品だ。 あぁ、これはきっとどっかのお馬鹿な学生がイタズラで、魔法で飛ばしたのかもしれない。 それが偶然この私、タビ様に当たったのだ。 「けっ、これだから最近の子供は」 そう悪態をつきながら、一応最後までページをめくり、教科書を閉じようとしたところ、裏表紙に文字が書かれていることに気づいた。 『サイリーナ・アルディー』 深紅のインクで記された角の丸い字が1列、そうお 利口に並んでいた。 サイリーナ、はきっとこの教科書の持ち主だろう。 私は辺りを見渡したが、それらしき少女は見当たらない。 それもそのはず、ここはただ緑だけが広がるの草原なのだ。
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