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「初めまして、タビさん。母のアリシアです。この度は娘の教科書を届けていただき、ありがとうございました」
アリシア夫人からも、これまた丁寧なお礼をいただく。
2人の発言の節々から、上流階級の品格が感じられ、自分がつい乱暴な言葉を発していないか、心配になってきた。
「いえ、偶然見つけたものですから。私も学生時代を思い出して懐かしくなりました」
自分史上最高に言葉に気を遣い、なんとかそう返答した。
「あら、そうなのね。もしかして内容も分かるのかしら?」
「この教科書のですか?」
「そう」
「そうですねぇ、学生の時に勉強はしました。もう随分昔のことなので忘れてしまいましたけど」
私が教科書の内容を理解できるということを知った途端、アリシア夫人は明らかにこちらに興味を示した。
これくらいのレベルが解けること自体、そんなに珍しいことでもないんだけどな……。
不思議だなと思っていると、夫人はサイリーナ嬢に何か耳打ちをした。
その後2人は目を合わせ頷き、私の方に向き直った。
「もう日も暮れているし、タビさんさえよければ今夜は泊まっていかれないかしら?お礼も兼ねて、最高のディナーを用意しますわ」
夫人のこの提案に、サイリーナ嬢も2度頷く。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「そう!では、後でお会いしましょうね」
夫人はそう嬉しそうに声をはずませ、ソファから立ち上がり、軽い足取りで部屋から出ていった。
サイリーナ嬢も軽く会釈し、それに続く。
私もさっきの召使いに連れられ、部屋を出た。
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