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青空の下、びゅーっと重い風が吹く。辺りの空気は湿気を多く含んでいて、熱気の中を泳いでいるようだ。
俺と圭は、文化祭準備で足りなくなった備品の買い出しに出ていた。
「圭、自転車ないんだから、来る必要なかったのに」
「学級委員として、一応働こうと思って」
「本音は?」
「準備の作業が面倒……」
「手先不器用だもんね。暑いのに自転車の後ろに乗せてあげてるんだから、感謝して?」
「ありがとうございます、涼様」
全然感情のこもってない声で圭が言う。
俺は大きくため息をついた。
他の人だったら殴ってるぞ。圭だから許してやるけど。
「そういえば涼、進路希望調査の紙書いた?」
圭が何事もなかったかのように、話題を変える。
「うん、近くの専門書いておいた。調理のやつ。
圭は東京の大学志望だっけ」
「うん、一応」
「家から通うの?」
「いや、一人暮らししようと思ってて」
「そうなんだ」
俺たちの地元は東京からは微妙な距離なので、人によって実家から通うかどうかはまちまちだった。
「片道二時間かけて通うのも面倒だし、一応親の許可も降りたから」
「ふーん。
……俺もやっぱり、都内の学校にしようかな。圭もいるし」
「急にどうしたの。友達に合わせて進路を決めるのはどうかと思うよ」
圭は大真面目な声で言った。
彼のことだ、表情は見えないけれど、きっと眉間にシワを寄せてるのだろう。
振り返らなくてもその様子がまぶたに浮かぶ。
「本気で返すなよ、冗談だよ」
ということにしておく。
さみしいだとか、自分の知らないところで圭が変わっていくのが怖いとか、そんな理由で進路を変えたくなる気持ちは、きっと勉強魔神のあいつにはわからないんだろう。
きっとこれは、俺の一方的な感情で。
「……」
「……」
圭が黙ってしまって、俺たちの間に沈黙が降りた。近くの海の、波の打ち寄せる音だけが響く。
少しして、圭が口を開いた。
「涼、コンビニ寄っていい?」
「いいけど、なんか買うものあった?」
クラス用のガムテープとか画用紙はもう全部買い終わったはずだ。
「いや、すぐに戻るのは惜しいなって思って」
「えっ。
……わかった」
圭のことだから、せっかく教室を抜け出したんだから、もう少しサボってから戻りたいってことなんだとは思う。
でも、俺ともう少し二人でいたいとか、そういう意味ならいいのにな。
暑さのせいか、そんな都合のいいことを考えてしまう。
俺の身体に回された圭の腕は熱くて、俺は熱の中で溺れてしまいそうだった。
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