最果ての夜に

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 大学は最後の夜の話題で持ち切りだった。今日は最後の夜飲みだ!とか、今日はレイトショー観に行く、とか。僕は家に帰って寝る、一択。やっぱり暗闇で寝れなくなることがちょっと寂しい。  教授が入ってきたことで教室内のざわめきは落ち着いた。朝イチ90分の講義はいつも眠気との闘いだけど、今日はやっぱりいつもと違うからか意識がはっきりしている。それを知ってか知らずか、授業も夜をテーマにしたものらしい。 「みなさん、今夜はどのように過ごしますか。是非、近くの人と教え合ってください」  大人になるにつれて、友だちの作り方を忘れてしまう僕たちにとって、友だちとも友だちじゃないとも言えない大学の子と交流するのは拷問に近い。話し合いをしてくださいと言われるたび、いつも気分が乗らないのだが、さすがに今日はみんな積極的に盛り上がって、僕の隣の席の子も話しかけてくれた。 「神楽くん、だよね?」 「うん。ごめん、えっと、」 「私、加賀美真白。神楽くんは今日どうやって過ごすの?」 「僕は、早く帰って寝ようかと思って。本当の暗闇で眠れるの最後だから」 「そっか。それもありだね」 「加賀美さんは?」 「私はみなとみらいに行く」 「みなとみらい?」 「みなとみらいの夜景が好きで。観覧車のライトアップももう見れなくなっちゃうから」  夜景を見るという選択肢がまったく浮かばなかった僕は、言われて納得した。みなとみらいも、東京タワーもスカイツリーも、イルミネーションさえもう見れなくなってしまうのか。  そのことに気づいてしまうと、直帰するのはなんだか勿体無いような気がしてきた。 「あ、でも、そうか。月とか星も見れなくなっちゃうのか」 「うん。だから今夜零時に日本中の電気が約30秒間消灯するんだって」 「え、そうなの?」 「神楽くん、ニュース見ない人?散々テレビでやってるよ」 「いや、どうだろ。見てるはずなんだけど、夜がなくなることに対してあんまり危機感ないから、聞き流してるんだと思う」  星も月も見れなくなってしまう。ということは、お月見もなくなるし、天の川を渡っていたはずの彦星と織姫の逢瀬ももう永遠にない。星座という概念さえなくなって、これから産まれてくる子はみんな、自分についている星座が一体どこから派生した情報なのか知ることはない。  花火だけじゃなくて、夜景もなくなる。 「…ねぇ、みなとみらいってさ、一人で行く?」 「うん。本当は家族一緒がよかったんだけど、私田舎から上京して来てるから」 「それ、僕も一緒に行っていい?」 「え?帰らなくていいの?」 「ちょっと、考えが変わった」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加