最果ての夜に

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 どうやら今日は終電なんて無くて、明日は日本全国祝日になるらしい。零時からの30秒以外、ずっと電車は動いていて、だから僕たちもみなとみらいに好きなだけいて、好きなときに帰れるようだ。  そんなことさえ僕は知らずにいて、何なら明日の大学の講義も出るつもりだった。加賀美さんとこうして一緒にいて教えてもらっていなければ、僕は恥をかいていた。 「本当に興味ないんだね」  電車の隅っこで、満員に押しつぶされそうになりながらモラルを保った音量で話す。彼女が思ったより近くにして、少し気まずい。 「教えてくれて助かった」 「むしろ珍しいと思う」 「夜がなくなっても実害なんてないと思ってたから」 「実害あったの?」  実害と言うには大袈裟だが、少なくとも朝より"夜がなくなる"ことに対する惜しみみたいなものが生まれている。夜景とか夕日とか、あまりにも当たり前すぎて今まで大してちゃんと見てこなかった景色が、もうこの先見れなくなると思うと「怖い」。自分が興味を持っていなかっただけで、夜が及ぼす影響はあまりにも大きいものだった。 「怖い?」 「え?」 「え?」 「僕、言った?」 「うん、怖いって言った」 「…そっか」 「でも分かる。私も怖い。たぶんみんなも同じ気持ち」  夜を失うのは、僕たちだけじゃない。この電車に乗っている運転手も含めた全員、その家族、地球に存在するすべての万物が夜を失う。僕が怖いと感じているなら、みんな似通った思いを抱いているのかもしれない。 「次、横浜」  武蔵小杉を発車して、彼女が呟いた。相も変わらず押しつぶされそうな空間で、僕はあられもない焦燥に駆られていた。
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