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第四章 神様のくつろぎスポットは膝の上(字余り)
後日、鶴山さんからお礼として別日のチケットが届いたんで見に行った。その時は何も起きなかった。
さすがの蟲毒も警察がはってると分かってるとこにまた現れるほどバカじゃないわな。
蟲毒が入れるレベルのアイテムに関しては比良坂さんもあちこちに聞いてくれてる。
巧お姉ちゃんも世界中の職人ネットワーク通じて心当たりないか、リメイクあるいは作ったりしてないか調べてるそうだ。
部屋であたしに巻きつきのんびりしながら九郎が言った。
「物に入ってるんだとすれば、なかなか見つからないのも納得だな。中に入ってしまえば外と完全にシャットアウトして妖気を感じ取ることもできない類もある。中が別空間だからな」
「厄介だね」
「だがあのレベルのが入っても耐えられるとなると少ないだろう。既存ならば比良坂士朗の調査にひっかかるだろうし、新しく作ったにしてもそれほどのものを作れる職人は限られる。これだけ総出で探しているんだ、早晩見つかるだろう」
「だといいね。器が人から物になっても、犠牲者が減るとは思えない。器探しが終わったなら安心して次に食う誰かを探し始めるってことだもんね」
蟲毒の性質上、これは必ず続けるに決まってる。
「自分が消えないように、勝てる相手……自分より少し弱い誰かを食らって毒を強化してくでしょ」
「だろうな。人間に限らず弱い妖やなんかも狙われるだろう。むしろそっちのほうが狙われるかもしれん。能力を取りこむためにな」
取りこむ、か……。
「どうした、東子?」
「うん、ちょっとね……。かわいそうだと思って。蟲毒に取りこまれてる魂たちを解放してあげることってできないかな?」
「…………」
九郎は無言であたしの肩から膝の上に移動した。
前作にあるように、蟲毒は最初は虫を、そのうち人間を強制的に殺し合わせて作られたものだ。負けたおびただしい数の魂が食われ取りこまれてる。
「分離して成仏させてあげられないかな」
「……不可能ではない」
九郎はゆっくり言った。
「もちろん俺では無理で、比良坂士朗に頼むことになるだろう。比良坂桃の力と合わせれば可能だろうな」
さすが日本神話トップ2。
「あれを作ったのが才能はあれどシロウトの子供だったのが幸いだ。プロが作ったなら敗者は完全に吸収され跡形もなかったろう」
無邪気に養父の仕事を引き継ぎ、『楽しく実験を重ねた』結果か……。
九郎があたしの手をなめた。
「東子は優しいな。被害者の一人なのに」
「だからだよ。負けて殺された人たちに罪はない、同じ被害者じゃん。助けられるなら助けたい」
「……そうだな。御影綺子や美木課長に相談しないとなんともいえないが、きいてみる」
「ありがと」
九郎の頭をなでなですれば、うれしそうに目を細めてる。
……昔は邪神と言われた九郎も、今はこうして穏やかな日々を送れてる。
蟲毒にされた魂がちにもいつの日かこんな平穏な日が訪れますように。
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