第一章 作戦会議はメンツがすごい

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第一章 作戦会議はメンツがすごい

 昔、邪神とされた神様がいた。  あたしの一族はその監視人として差別されてきたけど、二年前のある日、ひょんなことからその封印を解いてしまった。  すると全ては悪意ある人間の謀略だったことが判明。色々あって、今じゃ縁結びの神様にジョブチェンジ。あたしを妻にすると押しかけ同居した蛇神様は、大蛇の姿であたしに巻きつくのがお気に入りである。絵面だけ見るならパニック動画だな。  さて、『邪神の監視人』一族の末裔であるあたしは生まれつき普通じゃなかった。なにしろそんな一族の嫁・婿に来るのはワケありばかり。何らかの能力者とか、妖や人間じゃない者だ。家系図見ると世界中の人ならざるものカタログリストかな?って思う。その子孫が普通なわけないわ。  そのせいか特殊な素質があったらしく、幼い頃に虫の妖に誘拐されたことがある。  そいつの正体と目的がこのほど判明した。詳細は過去作参照。←さりげに宣伝  主要メンバーが集まって対策会議とあいなった。    ☆ 「では、会議を始めよう」  ウチの祀り神・九郎が白い大蛇姿であたしに巻きついたまま頭を持ち上げた。  ちなみに「九郎」は人型に化けた彼にあたしがつけた仮名で、気に入ったらしくそのまま使ってる。由来はヤマタノオロチの息子だから。  本来の職業は祀り神だけど、プロゲーマー・動画職人・料理研究家・土地開発業者・CEO・少女漫画家のスーパーアシスタントetc…とわけわからん副業が日々増えまくってる。どこへ行くつもりなんだ一体。 「まず報告から。最近頻発してる行方不明事件について。やはり蟲毒が自分の器にしようと誘拐したものと正式に断定。現在までに12件が発生。全員不適合で、生気を吸われただけでしばらく後に発見されており、命に別状はなし。その被害者の共通点洗い出しが終わったわ」  出席者の一人、妖らを取り締まる妖狐警察長官・九尾の狐の御影綺子(みかげあやこ)ちゃんが言った。  肉体年齢は小学生でも精神年齢と妖力は桁違い。超強いクールなJSだ。生まれは現代。  なお、昔あたしを誘拐した犯人が蟲毒という虫の妖。あたしを利用する予定が上手くいかないと分かって計画変更、器を求めて適合する人間を探して誘拐事件を次々起こしていた。 「美木課長と共同捜査の結果、負の感情を自分のうちにため込む性格の人間が狙われたようね」 「我慢しすぎるコに目をつけてるみたいネ。ためこむと、いわば密度が濃くなって強力になるデショ」  人ならざるものがからんだ事件の人間側対応部署に所属する美木課長がうなずく。肩書は警察官、国家公務員。  語尾で分かる通りオネエだ。  見た目はガチムチスキンヘッド。タンクトップにピチピチ黒ボトムス、ハイヒールというなかなか個性的な人物だ。  スキンヘッドなのは仏僧だから。奈良時代の生まれ。  え、すでにここまでで登場人物ツッコミが多すぎる?  いやいや、まだまだだよ。 「ヤツは作られた状況からして非常に不安定な存在。存続のため器を探している。けれど数百におよぶ怨念の集合体を入れられる器なんてそうそうないわよ」 「とりあえず探知アプリ改良したんで、皆さんインストールやアップデートお願いします」  あたしの親戚で美木課長の部下でもある巧お姉ちゃんがスマホ取り出した。  戦闘員ではなく、その装備や必要なものを作る裏方として働いている。二十代前半ながら業界では神職人と有名で、実は神器レベルも作れるらしい。  特定の妖を探知するアプリを作れちゃうあたり、その腕が分かるというもの。 「にしても、今は面白いモンあるよなぁ。このスマホとかアプリって、オレが現役の頃はなかったぜ」  スサノオノミコトが腕を組む。  言わずと知れた日本神話の超大物。九郎とはレベルの違う者同士気が合うそうで、親友だとか。 「ヤマタノオロチ倒したぜ!ってSNS載せたら絶対バズッたよな~」 「ああ、俺もザマミロって載せただろうな」  あんた息子じゃあ、とは誰も九郎にツッコまない。出生が理由で虐待されてた九郎は実の父親が嫌いで、スサノオノミコトのヤマタノオロチ退治を影から手伝ったくらいだからだ。 「探知機がアプリって助かるわよネ。昔はお札とか何らかのアイテム持っててもよかったけど、現代じゃ下手したら職質受けるワ。アタシ警察官なんだケド」  美木課長は警察官には見えないなぁ……。  というかそのままでも職質受けません? 「そうだろうそうだろう、巧はすごいのだ」  自慢げなのは巧お姉ちゃんのダンナさん、ニホンオオカミの妖・上弦(じょうげん)さん。  九郎の配下の四天王の一人で、傲岸不遜とキツさからトラブルメーカーだった。巧お姉ちゃんと結婚してから丸くなったよね。  というかペットの犬っぽくなった? 今も巨大狼の姿で巧お姉ちゃんを後ろから抱え込み、膝に頭のっけてる。 「上弦さん、すっかり丸くなって」 「そう? ゲンは前世から優しかったわよ」  なんでも前世からの知り合いらしい。再開したのは最近だけど。 「上弦が優しいと言えるのは巧さんだけですわ。トラブルばっかり起こしていた駄犬が」 「うんうん、真逆だよね。今もこの状況信じらんないし」 「そのまま飼いならしてアホなペット犬にしといて」  残る四天王の三人が口々に言う。それぞれ鶴の妖、鬼、ウサギの妖だ。  ボロクソ言われてるのに上弦さんはどこ吹く風。巧お姉ちゃんにナデナデしてもらってご機嫌だ。 「うわっ、昔ならブチ切れて辺り一帯破壊しまくってたのに!」 「マジすごい……ありがとう拝ませて」 「チッ。本人が恥と思ってなければ撮影しても使えませんわ」 「ははは。荒くれ者も嫁もらうと丸くなるもんさ」 「だな」  分かりみがありすぎるとうなずくスサノオノミコトに九郎。 「御影さん、今URL送りました。妖狐警察のスマホにはそこからダウンロードしてください」 「ありがとう、助かるわ」  妖狐も今時スマホ持ってるんだって。まして警察官は業務用配備してるそうだ。  そういえば。  きいてみた。 「綺子ちゃん。疑問に思ったんだけど、どうして被害者は一般人ばかりなんだろ? 犯罪者とか裏社会でリアルに殺し合って生き延びてる人のほうが肉体も強そうだし、負の感情も大きいんじゃ?」 「確かにそうだけど、そういうヤツは意志も強いのよ。だからこそ生き残ってると言える。入り込もうとしてもはじかれるか、下手すれば相手のほうが強すぎて食われちゃうわ」 「あ、そっか」  蟲毒にとって大事なのは己の存続。存在し続け、より強い毒を作ることが生み出した人物の意思だったからだ。  つまり自分より弱い相手を食らい、内部の毒を強化する。強い相手に挑んで負けて食われるのは何より避けたいってことか。 「加賀地さんが狙われなくなったのはそれもあると思う」  人間とそれ以外のトラブル仲裁人である比良坂士朗(ひらさかしろう)さんが言った。  見た目は20代前半のイケメン青年だが、身内曰く「ぐうたら者」。さっきも居眠りしかけてたくらいだ。  イザナキノミコトの力の一部を持つっていうとんでもない人だから、あえてその強大な力を使わず、ぐうたら装ってるんだと思うけど。 「加賀地さんは色んな種族の血が混じってるだろう? その子供も当然そうなるし、宿命が作動してもっと強力な力を持って生まれるはずだ。ぶっちゃけ蟲毒なんかよりはるかに強いだろう。逆に瞬殺されるかも」 「それでですか。ごちゃまぜハイブリットでよかった。しかもなんか、知らずに仙人の修行やらされてたおかげで仙女になってるし……」  修行つけてくれてた先祖の一人で仙人の良信おじいちゃんを見れば、タブレットにタッチペンを必死で操作し続けてた。 「良信おじいちゃん、また締め切りヤバイの?」  男性だけど少女漫画家なんだ。  忍だった実体験をもとにしたマンガが超売れてて、今やこの本殿の地下室が仕事場に。  神社の地下に先祖の忍で仙人がいて少女漫画描いてるってどうなん。どういう神社だ。縁結びの神社としてはある意味ありか? 「レディY先生、こっちの背景完了したぞ。次は?」  スーパーアシスタント九郎がきく。しゃべりながらも蛇何本か出して描いてた。  祀り神様がマンガ家のアシスタントやってます。 「助かるうううう。次はこっちのコマに日本の城と群衆を」 「分かった」  つか、蛇の体でどうやって描いてんの? あ、口でペン持って別のタブレットに描きこんでる。  綺子ちゃんが総括した。 「現状、奴の居場所は常に移動してるため不明。妖狐警察全員にこの探知アプリ配備して人海戦術で探すしかないわ。引き続き美木課長、連携よろしく」 「もちのろんヨ」 「今のところターゲットは人間で、不適合なら解放されてるんで命は助かってるが、いつまでもそうとは限らない。大戦末期に人間を殺し合わせてできた存在だから、今度も……より強い毒を求めるなら何らかの能力者、あるいは人間以外も集めて殺し合わせるかもしれない。残った最後の一人を奴が食う」  比良坂さんの指摘がありえそうで嫌だなぁ。 「これまではやってなくても、器探しが難航してるようだからありそうネ」 「そこなんですけど。戦後の混乱期こそやってておかしくないのに、ずいぶん経ってから現れたのはなんでなんでしょう? 誕生した研究所が閉鎖されてからあたしを誘拐するため現れるまで、どこでどうしてたんですかね?」 「研究所を閉鎖して……というか燃やして、蟲毒を作った穴も埋めた際、祟りが恐くてお祓いしたと前に言ったデショ? さらに、あまりに犠牲者たちが気の毒だって、お祓いした神主が鎮魂碑を建てたのヨ。彼は本物の能力者で、効果があった。死後は息子が毎年鎮魂の儀式をしてくれてたの。ところが息子が亡くなり、子供がいなかったもんで跡継ぎがいないからその神社潰れちゃったのヨ」 「あらら……」 「近くの少し大きな神社と統合するとか、そっちから誰か派遣するって案もあったみたいネ。でも氏子もいないような小さな神社にそこまですることはないって、潰すことにしたんですって。それでもせめて鎮魂だけは続けてくれてたらネェ……」 「誰もしなくなったから出てきちゃったのかぁ」  そうやって消えていく神社や寺の話は地方だとままある。 「そうそう、なぜ蟲毒が本人すら知らなかった君の宿命に気づいたか分かったよ」  比良坂さんが言った。 「種を明かせば簡単というか。最初の頃は虫を使って蟲毒を作ってただろ? その中に優れた子を産む個体がいた。それ自身は普通の虫と変わらないんだが、どういうわけか生む子供は優れてるっていう」 「虫にもあたしと同じ宿命もちがいたってことですか」  人間だけなわけないもんね。実際、一人目はギリシャの神様だ。 「いや、君やテテュス女神レベルはまず現れない。なにしろ下手すれば世界がもう一度やり直しになるほどの影響力だ。こっちは自然界に時々現れる程度のもの。たまにいるんだよ、そういう個体が。するとそれが起点になって急激な進化が起きたりする。生物はそうやって生き延びてきたともいえるな」 「へえ」 「その個体が食われて蟲毒の中にいるから、似たような加賀地東子の性質に気づいたってことね」 「ああ。この個体が勝者側でなくてよかったよ。もしこいつが生き残ってて子供を生んでたら、とんでもない化け物が生まれてたかもな」 「不幸中の幸いね。……さて、では引き続き人海戦術で捜索しましょう。神通力でも見つけられないのだから仕方ないわ」  そこ、謎なんだよね。九郎や比良坂さんの神通力でも見つけられないってなんでなんだろう?  二人くらいになると相手が神様クラスでもなければ妨害されてても見つけられる。蟲毒は強力な妖だけど神様じゃない。  じゃあどうして……?  みんなもそこがおかしいって調べてるみたいだけど。  中途半端な感がありながらも会議は終了した。     
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