B

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 ある時、Bは言った。捨て続けることが愛だと。  ある時、Bは言った。捨てることにはもう飽きたと。  ある時、Bは言った。捨てられるものなら全てを捨てたいと。  ある時、Bは言った。捨てられないものは全て背負って生きようと。 「…………」 いつの間にか雨は止んでいたけれど、僕はしばらく立ち上がる気になれなかった。  2時間前 『―――続いて次のニュースです』 テレビの中で、スーツを着た男性が原稿を読み上げる。 『先日、都内で通り魔事件が発生しました。被害に遭ったのは二十代前半の女性で、刃物のような凶器で腹部を刺されたとのことです。警察では通り魔事件として捜査を進めていますが、犯人の行方は未だわかっておらず……』 そこまで聞いて、僕はリモコンのスイッチを押してチャンネルを変えた。画面が切り替わり、別のニュース番組が流れる。出演者たちがコメントしあっている。司会者の隣に座る芸人が言う。『いやあ、最近物騒ですよねー』すると、司会者もまた同意を意見を挙げる。  このところ、こんな類の話題が多い。それも仕方がないかもしれないと思う。だってここ数日、連続通り魔事件を起こしているのは、僕なのだから。 あの夜以来、僕は毎日のように人を殺している。最初は二人だった。次は三人。四人目からは数えていない。殺した相手の顔も名前も覚えていない。ただ、殺したという事実だけを覚えている。その事実だけが積み重なってゆく。 最初のうちは怖かった。自分が狂ってしまったのではないかと本気で悩んだ。でも、すぐに慣れてしまった。今日もまた、人を殺すだろう。今はもう、誰かを殺すことに躊躇なんてない。何も感じなくなってしまった。 今宵、僕は感情を殺してしまった。 今宵、Bは感情を捨ててしまった。 そして、Bは消えた。
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