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「しかしまあ、想像してたのと全く違うよなー…此処は」
花畑も三途の川らしいものも見なかったしねーと彰の隣を歩く伊吹がキョロキョロ辺りを見回しながら言った。
「んー、まあそうだな」
ーー此処にきてまず初めに驚いた事がある。それは、想像していたものと全く異なっているという事。
彰も伊吹も死後は三途の川を渡って極楽浄土に行くか、はてまた地獄に行くものだと思っていたのだが…
「道中の立て札に"あの世へようこそ!詰所まであと一里(4k m)"なんて書かれてても信じられねえわ…本当に俺ら死んだのけ?」
伊吹が呆れた様に話すのに彰は苦笑する。彰も伊吹と同じように静かに辺りを見渡し眺めた。草原の中をただひたすらに伸びている一本の道しかなく、かれこれもう1時間はこの道を歩き続けている。
「……」
「彰?」
ふと立ち止まった彰を伊吹は不思議そうに眺める。彰は前を静かに見据えながらゆっくり口を開いた。
「 ……死んだんだろうな」
「……」
「…これだけ長い時間歩いているのに、体のしんどさを感じない。腹も空かねえし喉も渇かねえ。暑いかも寒いかの感覚も鈍いから分からねえ」
伊吹も同じように立ち止まって彰の話を黙って聞いていた。ーー何も話さない伊吹を見ると伊吹も彰と同じ感覚なのだろう。
「何より此処に来た瞬間にああ、俺は死んだんだなって直感的に頭で理解したんだよ。…ごめん、よくわからねえかもしれないけど」
そう苦笑しながら伊吹に言うと伊吹はおかしそうに笑い「俺も彰と同じだよ」と答えた。
「俺だけかと思ってたけど、彰もなんだな。分かるぜその感覚」
「伊吹の方こそ…。でも、なんだかもう腹が空くことがないとか考えると寂しいもんだな」
「いや、逆に言えば空腹感も満腹感もないから好きなだけ食い物食えるんじゃね?」
「……此処に食い物なんてあるのかよ」
「あるだろうよ」
さーとりあえず着くまで歩くぜ、と伊吹に促され歩くのを再開する。変わりなく足を進める伊吹を彰はチラッと横目で見た。
「……」
伊吹は明るいなと思う。その点自分は、と彰は頭を抱えた。ーー向こうに残してきた家族が気がかりだったのだ。自分を大事に育ててきてくれた父と母。そんな2人を置いて1人死んでしまった自分は
「…俺はとことん親不孝者だな」
ぽつりと小さく呟いた言葉が伊吹の耳にも入ったのか伊吹は足を止め、口を開いた
「それでも前見て進むしかねえよな」
「え」
「死んでしまった以上どうすることもできねえから、今はあの立て札に書かれていた場所まで行くしかねえし」
前見て歩こ、と伊吹に軽く背中をぽんと叩かれ彰と伊吹は歩き始めた。そう言った伊吹の表情もどこか悲しそうで、伊吹も自分と同じ気持ちなんだろうなと彰は思った。
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