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「ありがとうございました」
客が店から出るのを見送り、汐里はぺこりと頭を下げた。
自分が推していたブックケースが売れたので、喜びも倍になって感じている。
にこにこが顔じゅうを包み込み、頬がほっこりしている。
汐里にとって今日は何だか良い日に思える。
「あ、そろそろ十五時半だからお金合わせますね」
腕時計に目をやり、汐里はそそくさとレジに向かった。
資金と売上金を分け、明日の準備もしなければならない。
汐里が手際よく進めていると、先輩の山村がじっと見ているのに気が付いた。
「どうしたんですか?」
「林さん。その腕時計って、メンズ?」
山村の言葉に汐里はドキッと反応した。
さすが、山村は目ざとい。
彼女に隠し事など出来ないのだ。
「えっ、分かりますか」
「分からない方がどうかしてるでしょ!そんな細い腕に大きなの付けて」
にちゃあと笑いながら、山村は嬉しそうに話す。
「実は、今朝急に私の時計が止まっちゃって、それで彼氏が」
「貸してくれたんだね」
もうお腹いっぱいというポーズで山村は楽しそうだ。
「はい、腕に付けてくれました。時計が無くちゃ困るだろって」
「や~ん、彼氏が付けてくれたの?優し~!」
両手をパチンと合わせ、乙女のようなポーズで山村は言った。
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