君に恋する青い月【特別編の番外編⑧】樹の腕時計

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「ありがとうございました」  客が店から出るのを見送り、汐里はぺこりと頭を下げた。  自分が推していたブックケースが売れたので、喜びも倍になって感じている。  にこにこが顔じゅうを包み込み、頬がほっこりしている。  汐里にとって今日は何だか良い日に思える。 「あ、そろそろ十五時半だからお金合わせますね」  腕時計に目をやり、汐里はそそくさとレジに向かった。  資金と売上金を分け、明日の準備もしなければならない。  汐里が手際よく進めていると、先輩の山村がじっと見ているのに気が付いた。 「どうしたんですか?」 「林さん。その腕時計って、メンズ?」  山村の言葉に汐里はドキッと反応した。  さすが、山村は目ざとい。  彼女に隠し事など出来ないのだ。 「えっ、分かりますか」 「分からない方がどうかしてるでしょ!そんな細い腕に大きなの付けて」  にちゃあと笑いながら、山村は嬉しそうに話す。 「実は、今朝急に私の時計が止まっちゃって、それで彼氏が」 「貸してくれたんだね」  もうお腹いっぱいというポーズで山村は楽しそうだ。 「はい、腕に付けてくれました。時計が無くちゃ困るだろって」 「や~ん、彼氏が付けてくれたの?優し~!」  両手をパチンと合わせ、乙女のようなポーズで山村は言った。
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