君に恋する青い月【特別編の番外編⑧】樹の腕時計

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「あ、彼氏から借りたので、返さなきゃなんです。私のは電池切れで、朝出がけに玄関で貸してくれて」 「玄関で」 「はい」  岡野は、確認するように言った。  黙りこくっている空気が重苦しい。 「な、なんで、玄関で?」  岡野が真顔で聞いてくる。 その場にいた全員が、圧を感じた。 「……住んでるので」  岡野は今度は返事をしない。  この何とも言えない空気感に我慢が出来なくなったのか、山村が一気に喋り始めた。 「林さん、彼氏と一緒に住んでるんですって。朝、電池が切れちゃって、貸してくれたんだそうですよ」 「えっ」  山村の言葉を聞いた岡野が硬直しているのを見て、汐里もまた固まってしまった。  しーんとしている空間を、山村は黙ってくるりと方向を変え、そのまま事務所へと戻っていった。  と思った瞬間。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加