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 仄暗い中、龍がうごめいている。  (たく)()は、愛する男・龍司(りゅうじ)の熱い昂りを体内に受け止めながら、彼の右肩から胸に掛けて彫られた龍に柔く噛み付き、そして吸い付いた。ふと悪戯心が出て、彼の胸の突起に舌を這わせる。 「拓海。俺は、そこあんまり感じないぞ」  焦らすように腰を使われて、背を仰け反らせて快感に呻くと、逆に龍司から胸に口づけされる。 「ンっ……、はぁっ……。ねえ、龍司さん。もっと」 「お前はホント、気持ちいいことに貪欲な奴だな」  含み笑いしながらも、龍司は拓海の胸の尖りを強く吸いながら、奥を抉るように抽送する。ねめつけるようなの怖い表情や、鍛え抜かれた鋼の肉体とは裏腹に、拓海の表情や吐息、指先の力の入り方ひとつ見逃さない繊細さを併せ持つ。愛し合う時の龍司の顔には、拓海を求める狂おしげな熱っぽさと、宝物をいとおしむような優しさが代わる代わる覗く。愛されている実感を一身に受け、拓海は幸せを嚙みしめる。 「好き。龍司さん」 「俺もだ。……拓海、今度は俺の膝の上に来いよ」  誘われるままに、胡坐(あぐら)をかいた龍司の膝に乗る。中心には、彼の腹に付きそうな勢いで雄茎が屹立している。長大で赤黒く、ねらねらと光るそれは凶暴そうに見えるが、拓海にとっては、自分とじゃれ合うのが好きな可愛らしい小動物のような存在だ。拓海は優しくそこを撫で上げると、ゆっくりと切っ先に腰を下ろす。 「ああ……。最高だ」  龍司が満足げな声を漏らす。拓海は艶めかしい笑みを浮かべ、一気に全部を沈めず、先端だけを後孔で可愛がる。小刻みに腰を上下に動かしていると、我慢できなくなったのか、下から強く突き上げてきた。 「……っ、あんっ! もお……今日はゆっくりしよって言ったのに」  軽く口を尖らせて睨み付けるが、龍司は含み笑いしている。 「いつも最初はそう言うけど、こうやって煽ってやると、拓海めちゃくちゃ興奮するだろ?」  拓海を追い立てようとする時の龍司の雄の色気が好きだ。背筋をぞくぞくさせながら息を吐く。もう身体が熱くなってきた。こうして拓海は今日もあっけなく龍司の手管に陥落する。その後は互いに夢中になって貪り合い、快楽の(きざはし)をのぼり詰めた。存分に愛し合った充実感でうっとりとシーツに身を委ね、龍司の浴びるシャワーの水音に耳を傾ける。  ゲイ専門出張ホストだった拓海が龍司の情夫(いろ)になって二年が過ぎた。刑務所を出所した龍司が、馴染みだったホストを指名しようと出張ホストクラブに電話してきて、たまたまお茶を挽いていた拓海が出た。それが二人の出会いだ。一目見て彼が極道で、しかも危険な男だと分かったが、彼が発する孤独や寂しさの匂いに拓海は惹かれた。捨て猫が身を寄せ合って寒さから身を守ろうとするかのように、親との縁が薄かった二人が心を寄せ合うのも当然の帰結と言えよう。シャワーから戻った龍司が背後からベッドに滑り込み、逞しい腕を巻き付けてくる。拓海の脇腹に今も残る刺し傷の跡をなぞる龍司の指先は優しい。愛する男の腕に包まれ、拓海は間もなく心地よい眠りに落ちた。
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