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最低だと分かっている。だが想定外に彼女から断られて焦りを感じ、あの様に言ってしまった。呪いの事を持ち出せば、きっと彼女は断れないと……本当に、最低だ。 結局、彼女からは暫く時間を貰える事になった。屋敷にも滞在してくれる。 言ってしまった事は取り消す事は出来ないので、ヴィレームは気を取り直し、これからどの様にして彼女が自分との結婚を受け入れてくれるかを考える事にした。 「ヴィレーム様、こんなにして頂く訳には……」 食事を済ませてから、ヴィレーム達はフィオナの部屋へと向かった。無論、昨夜彼女が泊まった客室ではなく、クルトに言付けフィオナの為だけに用意させた部屋だ。 「もしかして、気に入らなかったかな?」 「そ、そんな事ありません!……ただ、私には身に余ると言いますか……」 「フィオナ、余り自分を卑下するものではないよ。この部屋は君の為だけに用意したんだ。相応しくない筈がない。ただ、余り時間が無かったからね。もし必要な物があれば遠慮なく言ってくれていいから」 そう言うとフィオナは戸惑いながらも、頷き「ありがとうございます」と返した。 その日から、フィオナはヴィレームの屋敷で暮らし始めた。 なんと表現すればいいか分からないが、頗る気分が良い。毎日朝昼晩と彼女が側にいる。朝彼女と一緒に食事を摂り、馬車に一緒に乗って学院へ向かう。昼休みは図書室ではなく人目のない裏庭で一緒に食事を摂り、放課後は一緒に馬車に乗って帰宅する。帰宅した後はやはり夕食を一緒に摂り、雑談、スキンシップ……。始めこそ戸惑っていたフィオナだったが、自分と二人きりの時には自然と仮面を外し素顔を見せてくれる様になった。髪や頬に触れると、はにかむ彼女が本当に堪らなく愛おしい。思い出すだけでニヤけてしまう。 「ヴィレーム様、お手が止まっていらっしゃいます……」 クルトに注意され、ヴィレームは我に返った。そうだった、今は仕事の途中だった。手元の書類を見てため息を吐く。留学中なのにも関わらず、仕事をしなくてはならないとは本当に人使いが荒い。まあ散々留学を反対され、最終的に出された条件でもある故、サボる訳にもいない。 「ははは……分かってるよ」 仕事自体は嫌いではないが……無性に今直ぐフィオナの顔見て声を聞いてイチャイチャしたい……。と言ってもまだ少し触れるくらいの関係でしかないが。いやだが、何れは床を共に……。 「ヴィレーム様」 また意識を飛ばしていた。ワザとらしい咳払いとクルトの声にハッとする。彼を見遣ると呆れ果てた表情だった。 「分かってるよ……」 子供の様に拗ねた様に言うと、目の前の机の上に、ドカッと追加の書類が積み上げらた。 「此処の所、おサボりになられておりましたので、まだまだございます」 これは、徹夜になりそうだ……。 ヴィレームは項垂れた。今夜はもう彼女の顔を見る事は出来そうにない……。
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