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「フィオナ、どうかした?」
ヴィレームの声に、フィオナは我に返る。食事を済ませて何時もみたいにヴィレームと部屋でゆっくり寛いでいた。
「全然ページが進んでないみたいだから」
開いていた本は未だ表紙を捲っただけで、一ページも進んでいない。昼間のヨハンとの話が気掛かりで、呆然とし考え込んでいた。
「……ヴィレーム様」
「どうしたの」
深刻な表情のフィオナに、彼は優しく微笑んでくれた。
どうしよう……。
聞いていいものか悩む。だがこのままでは気になって仕方がない。フィオナは手をギュッと握り締め、意を決して口を開いた。
「私がこの屋敷に来てから、私宛の手紙などはありませんでしたか?」
「フィオナ宛の手紙?……いや、届いてないけど、手紙がどうかしたの」
ヴィレームの言葉に、フィオナは困惑する。おかしい……ヨハンは毎日手紙を出してくれていたと話していた。でも、ヴィレームは知らないと言う。
何方かが、嘘を吐いている……?
「フィオナ?」
きょとんとしながら首を傾げて、自分を見ているヴィレーム。彼が嘘を吐いている様には思えない。それに彼が嘘を吐く理由もない。ならヨハンが嘘を……。それも理由が見当たらない。
手紙を出した嘘。手紙を知らない嘘。どちらにしても大した話ではない。だが、『嘘を吐かれた』と言う事実がフィオナの胸を締め付ける。
フィオナにとって、ヨハンもヴィレームもとても大切な人なのだ。唯一無二と言っても過言ではない。そんな人からの些細な嘘に不安が押し寄せて来る。
今回の事だけでなく、もしも他の事でも嘘を吐いているとしたら……。
そんな疑心暗鬼がフィオナの中に芽生えた。
◆◆◆
「フィオナ、おはよう」
「……おはよう、ございます」
フィオナはヴィレームの顔を見る事なく挨拶を返すと、そそくさと席に着いた。その様子にヴィレームは眉根を寄せた。
ここの所、フィオナの様子がおかしい。話し掛けても素っ気なく、目も合わせてくれない。ヴィレームは無言で食事をするフィオナを見遣る。
心当たりはないが、何かしてしまったのだろうか……。それともこれが噂に聞く倦怠期か⁉︎と思ったが……そもそも倦怠期になる程仲は進展していなかった……と思い直す。
カチャカチャと食器の音だけが食堂に響き、何とも言えない気不味さが漂う。
一体どうすれば良いんだ……。
正直、女性経験が皆無の自分にはこんな時どうするのが正解なのかが分からない。折角フィオナと最近良い雰囲気だったのに、このままではフィオナと結婚するどころか破局……いや、まだ付き合ってはいなかった。兎に角、どうにかしなくてはならない。ヴィレームは頭を抱えた。
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