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「なるほどね。それで素っ気なかったんだ」
「すいません……」
項垂れて平謝りするフィオナを抱き締める腕に力を込める。
「フィオナ、話してくれてありがとう。辛かったね」
「……お礼など言って貰える立場ではないです。だって私、ヴィレーム様の事疑ってたんですよ」
彼女は本当に純粋で優しく清らかだ。自分の様に、薄黒く濁ってなどいない。側にいるだけで、こんなにも癒され満たされる様だ。
「まあ、確かにそうだね。流石にショックだなぁ、僕ってそんなに信用ないのかなぁ」
ワザとらしくそう言うと、フィオナは泣きそうな顔になった。
うん、可愛い。
ヴィレームは、自分でも顔がだらしなく緩むのが分かったが、抑えられない。昨日まであんなに悩んでいたのが嘘の様だと、内心笑いが込み上げてくる。
「冗談だよ。それよりも、フィオナに嫌われた訳ではなくてホッとしたよ。それ以外は本当に気にしてないから、大丈夫だよ」
頭や頬を撫でると、彼女から擦り寄ってくる。これは試練に耐えた自分へのご褒美だろうか……俗に言う、恋の試練というやつだ。そんな下らない事を考えながら、密かに幸せを噛み締める。
「それに強ち間違いでもないしね」
「え……」
「勿論、君への気持ちに嘘偽りはないよ。ただ、多少の嘘は必要だからね。全てが真実とは限らない」
戸惑う彼女を尻目に、ヴィレームは話を続ける。
「フィオナ、以前も言ったけど僕は君が好きだよ。君が許してくれるなら、君を僕のものにしたい。これだけは、揺るがない事実だ。信じて欲しい。神に誓ってもいい……。ただ今はまだ全てを話す事は出来ないんだ。分かってくれるかな」
フィオナはヴィレームの目を暫く見てから、静かに頷いた。
やはり、可愛すぎる。思わず頭を撫でる。
「それにしても、手紙か……。弟君は出したって話してたんだよね?」
彼女の弟は手紙を書いたと主張している。しかも、毎日……。幾ら姉が大好きだからと言って、少々行き過ぎの様にも感じる……と、今はそうじゃない。
「はい……。でも、弟も嘘を吐く様な子ではないんです。とても優しくて、私みたいな人間でも姉だと慕ってくれる良い子なんです」
ヨハン・ヴォルテーヌ……良い子、ね……。
ヴィレームは少し考える素振りをしてから口を開いた。
「そうなんだね、分かった。帰ったらクルトにも確認してみるよ。もしかしたら彼が、職務怠慢している可能性もあるしね。それに配達中に手違いがあった事も考えられる。だから、この件は一旦僕に預からせて欲しい」
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