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フィオナとヴィレームが、暫く水辺で話していると湖の水が不自然に動いた。 「ヴィレーム、様っ……」 驚きヴィレームに身体を寄せると、確りと抱き締めてくれた。次の瞬間、水が(とぐろ)を巻きながら宙に浮かぶ。 ーくすくすー 「⁉︎」 笑い声が聞こえる……。 「怖がる必要はない、大丈夫だよ、フィオナ」 ヴィレームを見ると、彼はニッコリと笑っていた。そして渦巻く水へ向かって声を掛ける。 「騒がせてしまって、ごめんね。もう少し休ませて貰ったら退散するから、多めに見てくれないかな」 水の中にはこの世の物とは思えないくらい美しい女性が微笑んでいる。神秘と言う言葉が頭に浮かび……木々の間から差し込む日が、彼女を一層輝かせていた。目が釘付けになり離せない。 そしてヴィレームの言葉に、彼女は微笑みながら優雅にお辞儀をすると、水が弾け飛んだ。水飛沫が少しだけかかり、フィオナは目を見張る。湖を凝視するが、次の瞬間にはもう彼女は消えていた……。まるで夢でも見ていた様だ……。 「フィオナ、大丈夫?」 「は、はい……少し驚きましたが、凄く綺麗な女性が、あの方は」 そこまで話すと、ヴィレームは目を見開いて驚いた様子を見せた。フィオナは訳が分からず首を傾げる。 「女性、と言ったかい?」 「え……はい……」 ヴィレームの反応から、何かまずい事を言ってしまったのかと、不安になってくる。 「君にも見えたんだね、彼女が」 「それって、もしかして…………」 フィオナの頭の中にある存在が浮かんできて、顔が引き攣る。 まさか、こんな真っ昼間から……でも……。 「ゆ、幽霊⁉︎」 その言葉にヴィレームは、キョトンとした。そして声を上げ如何にも可笑しいと言わんばかりに笑う。 「はははっ、幽霊?はは、違うよ、フィオナ。彼女は、精霊だよ」 「せ、精霊、ですか……」 今度はフィオナが、キョトンとする番だ。 「あぁ、彼女は水の精霊だよ」 「水の精霊……私、初めて見たので驚いてしまいました。でも、凄く綺麗なんですね!」 さっきの女性が精霊なんて、驚きだ。だが確かに人間には見えなかった。精霊などと、まるで昔読んだ本のお伽話の様だ。 心臓が早鐘を打つのが分かる。何とも言い難い高揚感に包まれ、フィオナは不思議な気分だった。 ◆◆◆ フィオナは珍しく少し興奮気味に話している。余程感激したのだろう。 「それにしても驚いたな、君にも見えていたなんて……」 フィオナからは、確かに微かに魔力は感じる。だが、精霊を見る事が出来る程の魔力ではない……筈だ。だが、彼女は水の精霊を女性だと言い切った。 「ヴィレーム様……?」 ヴィレームはフィオナを凝視する。すると彼女は恥ずかしいのか頬を赤らめ俯いた。 「やっぱり、仮面なんてない方がいいね。こうして君の表情が見られる。……さて、そろそろ帰ろうか」 そう言ってフィオナを抱き上げたまま、ヴィレームは立ち上がる。馬に先に乗せると、自らも跨った。そして手綱を打つと、来た道を戻って行った。
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