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23
「フィオナ様宛に、手紙が届いております」
屋敷に帰りフィオナを部屋まで送り届けると、ヴィレームは自室に戻った。するとクルトの第一声はそんな報告だった。
このタイミングで手紙を書いて寄越すとは……。
フィオナに言った通り、これまで彼女宛に手紙が届いた事はない。今クルトから受け取った手紙が初めてだ。ヴィレームは手の中で手紙を弄ぶ。
さて、どうしたものか……。
送り主は確認せずとも分かる。フィオナの弟のヨハンだ。ヴィレームは面識はないが、中々厄介そうな男の様だ。
手紙を毎日書いていたなどと、よくまあ見え透いた嘘を吐いたものだ。差し詰め、大好きな姉を取った男に対しての嫌がらせに違いない。
大切な弟が毎日手紙を書いていると話せば、フィオナは勿論疑う事なく信じるだろう。だが、それと同時にヴィレームへの不信感が芽生える。当然だ。それではヴィレームが意図としてフィオナに手紙を渡していない事になる。
彼女が手紙の事を聞いてくれば、ヴィレームは無論知らないと言う。そうなると更に彼女は疑心暗鬼に陥る。ここまで彼の思惑通りだろう。そしてこのタイミングでの手紙……。
もしも、今ヴィレームがこの手紙をフィオナに渡せば……毎日書いていたとされる手紙をやはりヴィレームが隠していた事になってしまう。ならば渡さなければいい。だが、彼女への罪悪感は少なからず残る。
「全く、良い性格をしているね」
奥歯を噛み締めた。
普段余り思った感情をそのまま表に出さないヴィレームだが、これは流石に苛々する。手紙を掴む手に力が篭り、封書が少し歪んだ。
「余程、フィオナを取られたくないのだろうね、彼は」
ヴィレームにも兄弟姉妹はいるが、彼等が婚約しようが結婚しようが大して関心はない。ヴィレームは一般的よりも人間味がある性格ではない故、そう思うのかも知れないが……。
手元の封書に目を向ける。
やはり、ヨハンからはフィオナへの執着の様なものを感じる。それにしても……。
「重苦しいね」
封書から微かに感じる嫌な魔力。これは果たしてヴィレームに向けてのものなのか、それとも……。
そこまで考えた時、廊下が騒がしくなる。ヴィレームはクルトと顔を見合わせた。
足音がバタバタと聞こえたと思った次の瞬間、扉が勢いよく開け放たれた。
「ヴィレーム様‼︎」
そのに立っていたのは息を切らしたフィオナだった。
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