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「フィオナ様宛に、手紙が届いております」 屋敷に帰りフィオナを部屋まで送り届けると、ヴィレームは自室に戻った。するとクルトの第一声はそんな報告だった。 このタイミングで手紙を書いて寄越すとは……。 フィオナに言った通り、これまで彼女宛に手紙が届いた事はない。今クルトから受け取った手紙が初めてだ。ヴィレームは手の中で手紙を弄ぶ。 さて、どうしたものか……。 送り主は確認せずとも分かる。フィオナの弟のヨハンだ。ヴィレームは面識はないが、中々厄介そうな男の様だ。 手紙を毎日書いていたなどと、よくまあ見え透いた嘘を吐いたものだ。差し詰め、大好きな姉を取った(ヴィレーム)に対しての嫌がらせに違いない。 大切な弟が毎日手紙を書いていると話せば、フィオナは勿論疑う事なく信じるだろう。だが、それと同時にヴィレームへの不信感が芽生える。当然だ。それではヴィレームが意図としてフィオナに手紙を渡していない事になる。 彼女が手紙の事を聞いてくれば、ヴィレームは無論知らないと言う。そうなると更に彼女は疑心暗鬼に陥る。ここまで(ヨハン)の思惑通りだろう。そしてこのタイミングでの手紙……。 もしも、今ヴィレームがこの手紙をフィオナに渡せば……毎日書いていたとされる手紙をやはりヴィレームが隠していた事になってしまう。ならば渡さなければいい。だが、彼女への罪悪感は少なからず残る。 「全く、良い性格をしているね」 奥歯を噛み締めた。 普段余り思った感情をそのまま表に出さないヴィレームだが、これは流石に苛々する。手紙を掴む手に力が篭り、封書が少し歪んだ。 「余程、フィオナを取られたくないのだろうね、彼は」 ヴィレームにも兄弟姉妹はいるが、彼等が婚約しようが結婚しようが大して関心はない。ヴィレームは一般的よりも人間味がある性格ではない故、そう思うのかも知れないが……。 手元の封書に目を向ける。 やはり、ヨハンからはフィオナへの執着の様なものを感じる。それにしても……。 「重苦しいね」 封書から微かに感じる嫌な魔力。これは果たしてヴィレームに向けてのものなのか、それとも……。 そこまで考えた時、廊下が騒がしくなる。ヴィレームはクルトと顔を見合わせた。 足音がバタバタと聞こえたと思った次の瞬間、扉が勢いよく開け放たれた。 「ヴィレーム様‼︎」 そのに立っていたのは息を切らしたフィオナだった。
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