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「フィオナ、どうしたの?」 余程慌てていたのか、仮面が少し曲がっており髪と衣服は乱れている。 「ヴィレーム様っ私はどうしたら良いんですか⁉︎」 「落ち着いて、一体どうし……」 そこまで言いかけたヴィレームはあるものを見て黙った。目を見開き、目を凝らす。 「何か、くっ付いてるね」 フィオナの後頭部に何かがぺたりと張り付いていた。それをヴィレームはつまみ上げる。すると、それはバタバタと嫌がり睨まれた。 「可愛くないな……。フィオナ、これどうしたの?」 「実は……」 フィオナの話によれば、ヴィレームが部屋に送り届けた後部屋で暫くゆっくりしながら読書をしていたそうだ。だが暫くして背中に視線を感じ振り返ると、部屋の中を何かが走り回り最終的にフィオナの後頭部に張り付いてしまった、と言う事らしい。そしてパニックになりヴィレームの元まで、文字通り走って来たそうだ。 「頭を振っても取れないし、手でも届かないし、一体何が張り付いてるのかも見えなくて、怖くて……私ではどうする事も出来なくなってしまい……すみません」 フィオナが部屋に入って来た瞬間から、ヴィレームがずっと思っていた事がある。それは……フィオナが、可愛過ぎるっと言う事だ。しかも、必死に頭を振るフィオナなどと……絶対に可愛いに違いない!見たかった……。 ポーカーフェイスでそんな事を考えながら、項垂れるフィオナの頭を空いている方の手で撫でた。 するともう片方の手に未だつまみ上げている生き物が、シャーシャーと喚く。 「あの……ヴィレーム様。それは、一体……」 「あぁ、大丈夫だよ。特に害悪ではないし、怖くないよ。きっと森に行った時に付いて来てしまったのだろうね」 ヴィレームがパッと手を離すと、サッサとフィオナの方へ戻り今度は足元にペタリと張り付いた。 「⁉︎」 「ははっ、随分気に入られてるね。どうやら君に飼って貰いたいみたいだ。フィオナさえ良ければ、飼ってあげたら?」 ◆◆◆ 飼うって言われても……。 フィオナは困惑しながら、自分の足に張り付いている生物を改めて見る。余りに驚き慌てていたのでよく見ていなかったが……。 よく見ると、可愛い……。 猫ほどの大きさで、まん丸としたつぶらな瞳、長い耳とフサフサとした長い尻尾をブンブンと振っている。ただ、額には紅い石が埋め込まれており、この事からこれが普通の動物ではないのだと分かった。 フィオナが見ていると、目が合った。ウルウルと見つめられ、思わずそれを抱き上げる。 「飼い主が、私なんかで良いのかな……」 キュゥ〜。 不安気に呟くと、嬉しそうに鳴き声を上げた。 こ、これは、可愛い……。 「名前、付けてあげたら?」 「名前、ですか……」 「飼うなら必要だしね」 ヴィレームからの提案に、フィオナは頭を悩ませる。これまで生き物を飼った事はなく、無論名付けた事もない。 「何でも良いと思うよ。そうだなぁ、耳長いし、ウサギとかどう?イヌとかネコ、なんならタヌキとかは?」 「ウサギ……」 イヌ、ネコ、タヌキ……何と言うか、センスが……ヴィレームの提案にフィオナは顔が引き攣る。 抱き締めているそれは、気に入らないのかシャーシャー言ってヴィレームに怒っている。 クルトへ視線を遣ると、肩をすくめていた。 「……」 キュゥ? どうしよう、何も浮かばない……。 暫くそれと睨めっこしながらフィオナは考えるも、これと言って浮かんでこない。ヴィレームやクルトからも視線を感じ、段々と焦りが出てきた。早く決めなくては……でも流石にウサギは、ちょっとかわいそう……。 えっと、えっと……マカロン、フィナンシェ、クロッカン……。 何故か、お菓子の名前しか出てこない。別にお腹が空いている訳ではない……ただ、頭の中には次から次にお菓子の名前が浮かんでは消えていく。そしてパッと名前が浮かんだ。 「き、決まりました!貴方は……フリュイよ」 キュゥー‼︎ フィオナが名前を呼んだ瞬間、眩しいくらいに部屋中に光が溢れた。そして何処からか鎖が現れ、フリュイの首に巻き付くと、そのまま身体の中へと消えていった。
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