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「どなた様か存じ上げませんが、ご冗談も大概になさって下さい」
投げやりにそう言って仮面越しに彼を見遣ると、フィオナは思わず息を呑んだ。銀色の髪に青い瞳、整った顔と白い肌、スラリとした長身の青年がそこには立っていた。暫く時が止まってしまったかの様に身体が動かなかった。それ程見惚れてしまった……。
「あぁ、これは失礼。僕はヴィレーム。先日他国から留学してきたばかりなんだ。君の名前を聞いても良いかな?」
他国からの留学生などと珍しい……。たまにいるらしいが、フィオナが入学してからは聞いた事はない。
「フィオナ……ヴォルテーヌ、です」
俯き小さな声でそう返した。
「素敵な名前だね。フィオナと呼んでもいいかな?」
意外な反応をする彼に、戸惑いながらも頷いて見せた。すると彼は嬉しそうに笑う。
「ありがとう、フィオナ。僕の事はヴィレームと呼んで欲しいな。先程も話したけど、留学して来たばかりで実はまだ友人がいなくてね。心許ないんだ。もし良かったら僕の友人になってくれないかな」
フィオナは扉の鍵が掛かっている事を確りと確認する。それが終わると仮面を外し、鏡台の上に置いた。薄暗い部屋の中を頼りない蝋燭の灯だけが照らしている。鏡には薄気味悪い自身の顔が映っていた。
こんなに美しい人を見たのは初めてだーー。
今日のあれは一体何だったのだろうか……。
彼は留学生だと話していた。しかもつい最近の事らしい。ならフィオナの婚約破棄騒動の事は知らないだろう。それなら遊びとは違う。お世辞、いやただ単に揶揄われたのかも知れない。変な仮面を付けた女子生徒が歩いているのを見かけて、物珍しく暇潰しに構ってやろうと考えた……そんな所だろう。
もし良かったら僕の友人になってくれないかなーー。
もう期待などしない。ハンスの事で、懲り懲りだ。信じたから裏切られた。期待したから失望する羽目になった。分かっていた筈なのに……。全て自分に責任がある。だから同じ過ちは繰り返さない。
フィオナはベッドに潜り込み、頭までシーツを被る。今日の出来事は忘れよう……。キツく目を閉じ眠りに就いた。
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