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殺人事件の翌日から学院は大変な騒ぎになっていた。その理由は次から次へと、被害者が増えていったからだ。
「ねぇ、聞いた?今日の被害者、ロザリー様だったんですって」
フィオナが廊下を歩いていると、そんな声が聞こえて来た。聞き覚えのある名前に、心臓が跳ねた。彼女は、以前フィオナを廊下で呼び止めヴィレームのパートナーは自分だと宣言していた公爵令嬢だ。
「また、心臓がなかったんだろう」
「これで何人目だよ」
オリフェオと他言無用だと約束したが、あれはもはや何の意味もない。これだけ数が増えれば隠す事など無理だ。家族だって黙っていない。学院に乗り込んできた身内も何人か見た。
「えー、九人目じゃないか」
半月で九人。まだ正式に通達は出されていないが、今日にでも学院を暫くの間、閉鎖するのではないかと聞いた。
自主的に休む生徒もかなり増えて来ている。フィオナとシャルロットが教室に着くと席はガラガラで三分の一程しか生徒がいない。
こんな状況下で登院している人間は、相当な変わり者とも言える。こんな中で、授業などまともに出来る筈もない。故に授業をする為にではなく、事件への興味本位で登院していると考えてもいいかも知れない。
人間の心理とは面白いもので「自分は大丈夫」だと楽観的に捉えているのだろうか……。
ただフィオナが登院する訳は、興味本位などではない。それにヴィレームにも暫く休む事を勧められているのだが、それでもフィオナにはどうしても毎日登院しなくてはならない理由があった。
「フィオナ」
昼休み、フィオナの教室にヴィレームとブレソールが来た。ここの所は、心配だと言ってヴィレームが迎えに来てくれる事が殆どだ。申し訳ない気持ちになるが、嬉しくも思う。
「始めからこうしていたら良かったんですわぁ」
フィオナとヴィレームが並んで座る中、背中合わせになりシャルロットとブレソールが座った。何時も通り裏で昼食を摂るのだが、最近はこうして背中合わせでシャルロット達と食べている。
「これなら、フィオナちゃんとお喋りしながら愉しくお弁当を食べる事ができますわよねぇ!」
奇妙な光景ではあるが確かにこれなら、二人に顔を晒す事なく一緒に食べる事が出来る。
「まあ、苦肉の策だがな」
シャルロットは実に嬉しそうに、またブレソールが苦笑している声が背中越しに聞こえる。隣に座るヴィレームを盗み見ると、実に複雑そうだ。気持ちは分かる。
「本当はフィオナと。二人っきりが良いんだけど……」
そっちなんですね。
フィオナは、そんな事を呟く彼が可愛く見えて、くすりと笑った。
「ねぇ、フィオナ」
その夜、自室にて何時も通りヴィレームと話をしていた。夕食の後、応接間でシャルロット達と雑談後、ヴィレームに部屋まで送って貰いそのまま過ごす、二人だけの貴重な時間だった。普段は甘い空気が漂っているのだが、今夜は違った。
「はい、ヴィレーム様」
何時になく深刻な面持ちの彼に、フィオナは居住まいを正す。
「先日も話したけど、やっぱり暫く落ち着くまでは、学院を休んだ方がいいと思うんだけど……」
彼は遠慮がちにそう話した。だが意を決した様に、フィオナの返事を待たずにまたヴィレームが口を開いた。今度は先程よりもハッキリと少し強い口調だ。
「正直に言えば、行って欲しくない」
「ヴィレーム様……」
「無論学院内では姉上が側を離れずにいるから、心配はないかも知れない。でも、未だに事件の全貌は明らかにはなってないし……。これから先、何が起こるかも僕にも分からない。だから、何かあってからでは遅いんだよ。……僕はフィオナの事が心配でどうしようもない」
何の他意も感じない。ただ純粋に自分の身を案じているヴィレームにフィオナは心が揺れた。
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