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「何、考えてますの⁉︎フィオナちゃんを一人で行かせるなんて、あり得ませんわ!」 何時もより早く屋敷を出たフィオナを見送った後、起きて来たシャルロットに怒鳴られた。 「ヴィレーム、貴方フィオナちゃんが心配ではないんですの⁉︎」 「っ……」 そんな事、言うまでもない。心配で心配で仕方がないに決まっている。だが彼女から拒絶された事実に怯えこれ以上嫌われたくないと、彼女の言う通りにするしかなかった。 フィオナと出会った頃は、絶対の自信があった。彼女の魂が自分を呼んだから此処に来たのだと、彼女こそ自分の番なのだと胸を張って言えた。 だがそんなものは、もう何処にもない。昨夜の彼女の態度や言葉が物語るのは、殺された元婚約者への強い未練だけだ……。もはや自分の出る幕などない。 フィオナの事になると、自分で自分が分からなくなる。幼な子の様に、何も出来ない。無力過ぎて自分が嫌になる。 「心配に、決まってます……」 「なら」 「けど、これは僕なんかが立ち入って良い事じゃないって気付いたんです」  嘘だ。そんなのただの言い訳だ。本当はフィオナの、彼への気持ちを知りたくないだけだ……。ハンス・エルマーはもういない。それでも彼を想い続ける彼女を見るのが苦しくて仕方がない。自分はそんな彼女から逃げたんだ。   「また、諦めるんですの?フィオナちゃんに出会って貴方、変わって思いましたけど、結局何一つ変わっていませんわね」 盛大にため息を吐かれた。 「そう、だね……」 「ヴィレーム、貴方フィオナちゃんの婚約者なのではありませんの⁉︎」 「そうだよ……。けど、分からなくなってしまったんです。自信がない、フィオナはきっとまだ彼の事を忘れられずに……」 バチンッ‼︎ 「っ⁉︎」 突如シャルロットに、頬を叩かれたヴィレームは蹌踉めいた。呆然として姉を見遣る。 「だから何ですの⁉︎男なら、俺が忘れさせてやる!くらいの気概を持ちなさいな。彼女が貴方を呼んだから、わざわざこんな辺境の地まで来たのでしょう?誰に反対されても、貴方は頑なに意思を曲げなかった。そんな事これまで一度たりともありませんでしたわ。ヴィレーム……彼女は貴方の番なのでしょう?そう私に嬉しそうに、話してくれたじゃありませんの……。それなのに貴方は、自分ではない他の殿方を好きだからと言うそんな下らない理由でフィオナちゃんを見捨てる訳ですわね。結局貴方は、自分が一番可愛いだけ……貴方の覚悟は随分と薄っぺらぺらなものでしたわね。貴方の器の大きさはミニチュアサイズですわ!まだまだお子様で情けなくて、不甲斐ない、私の弟には……愛を語るなんて事百年早かったようですわね」 「……」 「私は行きますわよ。貴方は勝手になさいな。何時迄も、そうやってウジウジウジウジ、なさってなさい」 シャルロットはそう言い捨て、部屋から出て行った。 グワッ‼︎バシッ! しかも、いつの間にか姉の後ろにいたアトラスにも一喝され、羽で追撃を食らわされた……。本当に飼い主にそっくりだ……可愛くない。 「フィオナには近付けさせないって約束だったのに、嘘つきだな……姉上は」 今はどうでもいい事を呟いてみる。意味はない。それに嘘吐きは自分だ。彼女の側にいると約束したのに……彼女を一人している。 ヴィレームは暫く呆然と立ち尽くしていたが、急に苛々しながら頭を掻きむしり、壁を殴った。腕が、ジリジリと痛みを感じる。 なんて自分は情けない男なんだろう……。 「覚悟は出来たか?行くんだろう」 暫くその場で立ち尽くしていると、扉が開きブレソールが入って来た。 「ブレソール……僕は」 「大丈夫だ、ヴィレーム。まだ、遅くない」 ハッキリとそう断言し、屈託のない笑みを向けるブレソールに目を見開く。 「シャルロットはさ、あんな言い方しか出来ない性格だからな……だがあれでもお前を心配してるんだ。お前に、変わって欲しいと思ってる。ヴィレーム、もっと自信を持てよ。諦め癖があるお前が、自分の意思で今此処にいるんだ。彼女に出会う為に、此処に来たんだろう。他の誰でも無いお前の意思で、彼女を選んだんだろう」 昔から何をしても、直ぐに諦めていた。どうせ何をした所で、には敵わないと……。何時もあの人と比べられて、誰も自分を認めてくれない。ずっと、劣等感に苛まれてきた。シャルロットだって、ブレソールだって、口では否定をしても結局あの人よりも劣った存在だと思っているに違いないと、卑屈になっていた。 彼女もあの人の存在を知れば、自分と比較するだろうか……。 『ヴィレーム様』 「っ……」 はにかみ自分の名前を呼んでくれる彼女が、脳裏に浮かぶ。真っ直ぐに、ヴィレームだけを見てくれる。 あり得ない。絶対にない。断言出来る。フィオナはそんな人間じゃない。 その瞬間、自分がどれだけ救いようがない人間だと痛感する。何だか、可笑しくて笑えてくる程だ。 「……そうだよ。フィオナの魂が、僕の魂を呼んだんだ。だから、僕は今此処にいる」 ヴィレームは、外套を掴むとブレソールの横を擦り抜け、足速に部屋から出て行った。ブレソールが背中越しに、笑ったを感じた。
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