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「全く、何なんだ。そこの仮面女!何故お前がいる⁉︎」 倒れたオリフェオが、目を覚ますと元の彼に戻っているようだった。記憶が曖昧で、何故自分が廊下で倒れているのかが分からず混乱し喚き出した。 「あの……それは」 フィオナは返答に困った。そもそも何時からヨハンはオリフェオに乗り移っていたのかも分からない。あの昼休みの時は一体どっちだったのだろう……。屋敷まで着いて来た時はヨハンだったと思うが、その前までは判断し兼る。 キャンキャン喚いているオリフェオを見ながら、苦笑するしか出来ない。取り敢えず、この場は適当にやり過ごそうと決めた。 「私が登院して教室へ向かっていた際に、殿下が廊下で倒れていらしゃるのを見つけたんです。誰か人を呼ぼうと思った矢先に、目を覚まされたので……。きっとお疲れなんですね。今日はもう帰られた方が宜しかと……」 適当な言い訳をすると、オリフェオに睨まれた。 「そんな事、お前に言われる筋合いはない」 「出過ぎた事を申しました。申し訳ありません」 「……」 「あの、何か……」 じっと凝視され居心地が悪い。 「……まあ、いい。お前には借りがある」 借りとは……フィオナが首を傾げた。 「話を聞いて貰ったからな」 消え入りそうな声でボソッと呟いた。瞬間、昼休み裏庭での事を思い出した。 「だが丁度あの日辺りから、記憶が曖昧なんだ。突然記憶が飛ぶ。やはり疲れているのかも知れんな。あの日も、お前と図書室へ行った後の記憶がない」 「……そう、なんですね」 やはり、図書室で……。 あの時、ヨハンは図書室にいたのだろう。それでもってオリフェオに乗り移った。その後何食わぬ顔でオリフェオとして、フィオナ達と一緒に屋敷まで着いて来た。 オリフェオに精神を移しているその間はヨハンの身体は何処かに放置されている……?今、弟は一体何処にいるのか……。 「オリフェオ王子殿下」 フィオナが頭を悩ませていた時、凛とした声色が廊下に響いた。フィオナとオリフェオも驚いて声の方を見遣ると、廊下の少し先に騎士の風貌をした青年等が数人立っていた。 「何だ、貴様等は」 「私をお忘れですか?騎士団副団長を務めております、べノン・クーロンです。何度も顔を合わせておりますが……」 「知らん。興味のない人間は覚えない主義なんでな」 何と言うか……随分と自己中心的な主義を掲げていらっしゃるんですね……。 フィオナの顔が引き攣った。べノンは呆れ顔で、ワザとらしく咳払いをする。 「オリフェオ王子殿下、この度の学院内での殺人容疑の重要参考人として、貴殿を拘束させて頂く為に参じました」 そう青年が言った瞬間、ズカズカと彼の部下達が近付いて来て、あっという間にオリフェオを拘束してしまった。 「何をするっ⁉︎無礼者‼︎貴様等、この私にこんな真似をして、タダで済むと思っているのか⁉︎」 オリフェオは掴まれた腕を振り解こうと踠くが、びくともしない。 「一体、誰の許しを得てこんな事をしている⁉︎」 「王太子殿下です」 「兄上、だと……」 「お話は戻られてから、お伺い致します。まあ、牢でになりますが」 王太子だと聞いた時、オリフェオはさっと顔色を変えた。 フィオナは焦った。ヨハンの所為でオリフェオに殺人容疑がかけられている。どうにかしなくては……。だが、一体どうしたらいいのか分からない。まさか、自分の弟がオリフェオの身体を乗っ取って、殺人をした犯人です……なんて言えない。言った所で誰も信じないし、鼻で笑われそうだ。 こうしている間にもオリフェオは連れて行かれようとしている。 「お、お待ちくださいっ‼︎オリフェオ殿下が、人を殺めるなどあり得ません!」 彼等は一斉にフィオナを見遣る。そして、べノンが鼻で笑った。 「オリフェオ王子殿下も随分と落ちぶれたものです。この様な小娘を相手にされているなど。もしかして、貴様も共犯ではないだろうな?」 上から下まで舐め回す様に見られた。明らかにフィオナを蔑んでいる態度と目だ。 「まあ、ついでだ。この娘も連れて行け」 「やめっ……」 次の瞬間、フィオナの腕が乱暴に掴まれる。 「止めろっ‼︎こんな仮面女が、私と関係ある訳がない‼︎偶然出会しただけだ!私に用があるなら、さっさと私だけを連れて行け!」 オリフェオが叫びながら、再び暴れ出す。必死になって助けようとしてくれているのだと、伝わってきた。 「オリフェオ殿っ……⁉︎」 フィオナが呼び終える前に、物凄い速さで何かの影が現れた。思わず目を見張る。 「な、何だっ⁉︎」 「おい、やめろっ」 「痛っ‼︎」 騎士等は腕や足、首に噛みつかれパニックになっている。 「フリュイっ⁉︎」 いつの間に……ついて来ていたのか。フィオナは呆気に取られるが、今はそんな場合ではない。 「オリフェオ殿下‼︎」 フリュイのお陰で、自由になったフィオナは、オリフェオの腕を掴んだ。 「フリュイっ」 フィオナが呼ぶと彼等を一通り薙ぎ倒したフリュイが「キュルゥ」と可愛く鳴いて走って来た。それを確認すると、フィオナはオリフェオを連れて踵を返すと、全力で走り出した。
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