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息を切らし、ただひたすら走った。 「全く、次から次に意味が分からん」 フィオナとオリフェオ、フリュイは裏庭の木陰に身を隠していた。兎に角あの場から逃げなくては、その一心だった故に特に当てもなく気が付けば裏庭に辿り着いていた。 「何故、私が殺人犯にされなくてはならないんだ。それに、まさか兄上の指示だったなどと」 オリフェオはもっと怒り狂うかと思ったが、意外にも冷静に怒りを露わにしている。 「で、この後一体どうするつもりだ」 「あー……そうですよね」 逃げて来たのはいいが、何も考えていない。オリフェオとフリュイからの視線が痛い程刺さり、プレッシャーを感じる。 「はぁ、莫迦な女だな。私を置いて逃げれば良いものの……。本当にタダの莫迦なのか、お人好しなのか分からんな」 呆れた様にため息を吐く。そんなに莫迦莫迦言わなくても……と顔が引き攣る。オリフェオが犯人でない事は明白で、置いて逃げるなど考えられなかった。まして弟の所為なのに。 「お前一人だったらどうとでもなっただろう」 「いえ、例え私が一人で逃げていたとしても何れ捕まって仕舞いかと……」 あの様子なら、幾らオリフェオを捕まえた所でフィオナの後を追ってくるだろう。 「お前だけなら……あの男の元に逃げれば、あの者達も迂闊に手出しは出来ん」 あの男……?とフィオナは首を傾げる。 「ダンスパーティーの時に、お前と一緒にいた男だ」 あぁ、ヴィレームの事かと合点がいく。だが何故ヴィレームの所に行けば手出しが出来ないのかフィオナには分からない。確かに彼はこの国の人間ではないし、扱いとしては客人に近い。ただ幾ら他国の伯爵令息だからといって罪人を匿えば彼の立場だって危うい筈だ。 「ヴィレーム様の事ですね。ですが、ヴィレーム様にはこれ以上迷惑は掛けられません。私を匿えば、ヴィレーム様も捕まってしまう可能性があります……」 フィオナの言葉に今度はオリフェオが首を傾げる。 「何だ、お前知らないのか?」 「何をですか?」 質問を質問で返してしまった。失礼だが、意味が分からないので仕方がない。すると呆れた様な顔で見られた。 「あの男と、一緒の屋敷で住んでいる癖に知らぬのか?婚約したとも聞いた。何故そんなお前が知らないんだ。やはりただの莫迦なのか?」 「……」 また莫迦と言われた……と言うより、色々知られている事の方が怖いし、気になる。 「あの男は……」 グッワァ! 「キャッ⁉︎」 オリフェオが言葉を言い掛けた時、急に背中が重くなるのを感じた。 グワァ〜。 スリスリ。 「え……」 フィオナ達が振り返ると、そこにはシャルロットと自分に抱きついているアトラスの姿があった。 「シャルロット様⁉︎何故こんな所に……」 「それはこっちの台詞ですわ。心配しましたのよ。こんな時に一人で登院するなんて」 シャルロットが話している間にも、アトラスは嬉しそうにフィオナに擦り寄って来る。するとフィオナは、フリュイがじっとその様子を見ているのに気がついた。何か言いたげだ。怒っている様にも引いている様にも見える……。 グワァ〜グワァ〜グワァ〜グワッ⁉︎ 「煩いですわよ、アトラス」   またもや、ゲンコツを食らわされているアトラスは涙目でフィオナから離れた。可哀想だ……。 「すみません……。ただこれ以上は、シャルロット様達にご迷惑をお掛けしたくなかったんです」 「迷惑だなんて、これっぽっちも思っていませんわ。可愛い弟の大切な人なんですもの。今は婚約者と言う立場だけれど、何れ貴方はヴィレームの妻になるのでしょう。それならば、私にとって妹も当然ですわ。寧ろ我儘を言って甘えてくれるくらいの方が、私は嬉しいですわよ」 シャルロットは、そう話して優しく微笑んだ。 フィオナは目を見開き、唇を巻き込む。目の奥が熱く感じた。まさかそんな風に思ってくれているなど思わなかった……。 「それはそうと、こんな所一体何をなさってますの?」 その言葉にハッとする。改めて今の自分達の現状を顧みた。裏庭の木陰にいい歳した男女と一匹がしゃがみ込んでいる……。側から見たら、怪し過ぎるだろう。 「実は……」 フィオナは簡潔に、これまでの経緯を話し始めた。
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