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稲妻が走る音と破裂する音、風を切る音……地面を蹴る音が中庭に響き渡る。 ヴィレームは(いかずち)を操りながら、ヨハンの攻撃を俊敏に躱す。ヨハンは風をまるで刃の様に変えて、振り翳している。互いに一歩も引く様子はない。 フィオナは驚いた。普段割とのんびり構えているヴィレームの姿からはまるで想像もつかない。まるで、別人みたいだ。そう思うと、彼の事を知った気でいたが、まだまだ知らない事が多いのかも知れない。良く考えれば彼と知り合って大して経っている訳でもない。これまで見てきた彼はほんの一面に過ぎないのかも知れない……。 「ヴィレームと互角に渡り合うとはな。凄いな、あの石は」 「流石、あのザハーロヴナ・ロワの魔力を込めた石ですわね」 二人ともにやたりに石を強調する。確かにヨハンがと言うより、凄いのは石なのかも知れないが、悪意しか感じられない……。 冷静に且つ感心しながら眺めるブレソールとシャルロットをよそに、フィオナはハラハラして落ち着かなかった。 不意にフィオナは視線を斜め後ろにいるオリフェオへ移す。彼は余りの事態に放心状態で、先程からずっとフリュイとアトラスに乗られもはや玩具にされてる。 私は、どうすればいいの……。 フィオナはヴィレームとヨハンに視線を戻した。 このままでは何方かが倒れるまで、闘い続けるだろう。互いに殺す気だ。二人からは殺気が痛い程伝わってくる。 ヴィレームは何度目かの攻撃の(のち)に、隙をつき地面に(いかずち)を放つ。すると地面が激しく揺れ地割れを起こす。足元がグラつき蹌踉めいたヨハンの手から、蒼石が宙に放り出された。ヴィレームは瞬時に(いかずち)で蒼石を粉々に砕いた。 パリンッ……。 まるでガラスが割れる様な音の後に、石はサラサラと塵へと変わった。 「僕の、石がっ‼︎」 ヨハンは慌てふためきながら、手を伸ばすが間に合わず、砂の様に風に流されて指の間を擦り抜けていった。 ヴィレームは、軽く息を吐くとヨハンの元へゆっくりと歩いて行く。とどめを刺すつもりだろうか。フィオナはハッとして、止めようと口を開こうとした瞬間……。 ズシュッーー。 鈍い音が聞こえた。ポタポタと赤い液体が、ヴィレームの腹部から溢れ出し流れていく。 「なんてね。残念だったね……誰が、石が一個しかないって言ったの?石は何個かあるんだよ。まあ、でも僕が持っているのは二個だけだけど」 「っ……」 腹部を押さえながら、ヴィレームは地面に膝をついた。 「ヴィレーム様っ‼︎」 フィオナが駆け寄ろうとすると、シャルロットに阻まれる。フィオナを背に庇い、ヨハンと対峙する。 「フィオナちゃんは、お下がりなさいな。ヴィレームは大丈夫ですわ。あれくらいでやられる程、私の弟は柔ではありませんもの。……だから、ね?」 嘘だ。シャルロットの緊迫し焦った表情から、直ぐに感じた。フィオナを安心させる為にそう言っているのが分かる。 「でもっ」 「フィオナちゃん。ヴィレームは貴女を守る為に命をかけて闘っています。その弟は私に貴女を託しました。故に私には貴女を守る責務があります。それに貴女を失ったら、弟の想いを踏み躙る事にもなってしまいます。だから、貴女を私に守らせて下さいな……あの子の為にも」 「……」 何時もの明るく元気なちょっと強引で、でもとても優しいシャルロットではない。フィオナは、目を見張る。 凛として気高い、まるでお伽話に出てくる王女様の様だと思った。 ヴィレームの想いを踏み躙る……そんな風に言われたら……フィオナはもう、それ以上何も言える筈がない。 今度はシャルロットが、ヨハンへと攻撃を仕掛ける。 シャルロットが手を翳すと、炎が塒を巻いてヨハンを飲み込んだ。だがその直後、炎の渦の中から水飛沫が舞い散る。燃え盛る炎は一瞬にして、煙に変わった。シャルロットは、顔を顰めるが、再び構えると今度は空に向かい炎を放つ。先程の倍近い炎の渦がヨハンへ降り注ぐ。だが、やはりそれも一瞬にして水飛沫に消えていった。同じ事を幾度なく繰り返し続ける内に、シャルロットはふいに蹌踉めいた。息が荒い。かなり体力が奪われている様に見える。それに対して、ヨハンは余裕そうに笑っていた。先程のヴィレームの時もそうだ。弟は遊んでいるのだ。 まるで、夢でも見ているのではないかと思えてしまう。こんなのが現実だなんて、思えない。フィオナは、どうする事も出来ず、ただブレソールに支えられて立っているのがやっとだった。 「本物の魔法使いも、大した事ないね」 「っ……まだ、これからですわ。アトラス、いらっしゃいませっ」 グァ? 未だ、オリフェオに乗って遊んでいたアトラスは、シャルロットをチラリと見遣る。 「アトラス、早くなさいなせ!」 グァ〜? 小首を傾げる姿は可愛いが、主人が呼んでいてるのにも関わらず動く気配はない。惚けた鳴き声を上げている……面倒くさいと言わんばかりだ。シャルロットは、苛々した様子で口元をひくつかせている。 「ア、アトラス……シャルロット様を、助けて」 グワァ! フィオナが声を掛けた瞬間、アトラスは凛々しく鳴き声を上げ大きな羽を広げた。そのまま勢いよくシャルロットへと向かって行った。 「ハハッ……これじゃあ、誰が飼い主か分からないな」 ブレソールの乾いた笑いが聞こえた。
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