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「ぁ…………」 声が、出ない。頭がクラクラする。視界が歪んで見える。シャルロットもアトラスも、ブレソールもオリフェオも……ヴィレームも、傷付き、倒れている。頭が真っ白になる。立っているのさえ、辛い。 全て、自分の所為だ。 フィオナは放心状態になり、力なく地面に倒れ込むと、蹲る。ゆっくりと近付いてくる足音が聞こえてくる。 もう、何も見たくない。何も聞きたくない。 「姉さん」 足音が止まり、腕を掴まれた。だが、顔を上げる事が出来ない。 「ねぇ、姉さん」 どうしてだろう。分からない。弟は昔から優しくてこんな自分を何時も『姉さん』って無邪気に呼び、慕ってくれた。 幼い頃は良く本を読んでとせがまれ、読んであげた。それを愉しそうに目を輝かせて聞いていた……。そんな弟は、今はただの殺人者に変わってしまった。 「僕に心臓をくれるよね」 分かってる。全て私が悪いの……。 「姉さんだけズルいよ。僕だって使い魔が欲しいよ。でも、この石じゃ契約は出来ないんだ」 あの部屋を開けてしまったから。あの部屋が開かずのままだったなら、自分だってこんなアザを負うことはなかった……ヨハンだって、こんな風になる事は……なかった。 「姉さんは、僕の姉さんなんだから、くれるのは当前だよね?それに、僕がこんなに欲しがる様になっちゃったのは、姉さんの所為なんだよ。あの部屋に入らなければ、僕だって欲しいなんて思わなかったもん」 全ての元凶は……私だ。分かってる。 「だから、姉さんが全部悪いだ」 この瞬間、気付いてしまった。ヨハンの言う通りだ。私が全部悪い。自分さえいなければ、家族が死ぬ事も、学院生等が死ぬ事も、ヴィレーム達がこんな風に傷付く事もなかった……。 「姉さんが悪いんだから、ちゃんと責任とってよ」 あんたさ、良くこんな顔で生きてられるな。俺だったら、無理無理、即死ぬわーー。 いつか誰かに言われた言葉が頭を過ぎる。あの時は酷いと悲しむだけだったが……今思えば本当にその通りだ。自分などさっさと死んでしまえば良かったのかも知れない。そうすれば少しは違った未来があったかも知れない。 少なくてもヴィレームを巻き込む事はなかっただろう。私などに出会った所為で彼は……。 「ねぇいいでしょう、頂戴。姉さん、ねぇってば」 もう、いいや。弟が心臓が欲しいと言うなら、あげればいい。それで、お終いでいい。こんな呪われた人生、もう終わりにしてもいいよね。 もう、いいよね……逃げても、諦めたって。 呪いを受けたあの日から、これでも必死に生きて来た。誰に蔑まれ、必要とされなくても。痛くても、苦しくても、逃げたくても、耐えるだけの日々……。そんな中で弟だけが自分を人間として扱ってくれた。でもそんな弟も、もう何処にもいない。 もう…………疲れちゃった。 心臓が早鐘を打ち、熱くて苦しい、痛い。暗い感情が生まれ、自分が深い闇に呑まれ沈んでいく気がした。 フィオナが「いいわ」そう口を開こうとした時だった……。 フィオナーー。 「っ……」 フィオナはハッとする。自分を呼ぶ彼の声がした。瞬間、暗闇に一筋の光が差す。 「フィオナ‼︎」 もう一度自分を呼んだ声は、今度は鮮明にハッキリと耳に届いた。 ゆっくりと顔を上げるといつの間にか、ヨハンを羽交い締めにしているヴィレームが目の前にいた。必死にヨハンへしがみ付いている。今の彼は立ち上がるのさえ辛い筈なのに…… それでも彼はヨハンを離そうとしない。足元には彼の身体から流れた血が血溜まりを作っていた。 「ヴィレーム、さま……っ」 「フィオナ、生きる事を放棄しちゃだめだ‼︎フィオナ、聞いて。君は悪くない。誰がなんて言おうと、君は悪くないっ‼︎例えこの世の全てが君を悪だと言おうとも、僕は君の味方だから、君の側には僕がいるっ、君を一人になんかしないっ‼︎もう自分を責める事も嘆く必要もないんだ。フィオナ……もういいんだよ。もう、いいんだ。苦しむ必要なんてないんだよ。我慢しなくていいんだ。フィオナ……僕と一緒に生きよう、そう約束しただろう?」
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