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「ガハッ……」
ヴィレームの背にヨハンが魔法で作り出した鋭い刃が刺さり、吐血した。
「分かった様な口を聞くなっ‼︎お前なんかに、姉さんの何が分かる⁉︎姉さんの事は、この僕だけが理解して分かってあげられるんだ‼︎ずっと、ずっとっ姉さんと二人で上手くいってたのにっ!お前なんかが、現れたりするからおかしくなったんだっー‼︎」
興奮しきった様子のヨハンは、子供の様に地団駄を踏む。
「うっ……フィ、オ……」
ヴィレームは地面に這いつくばりながらも、フィオナへと手を伸ばしてくる。
「ヴィレーム様」
不思議だ、身体が軽い。さっきまでは、暗闇の中身体が泥沼に呑まれている様に動けなかった。だが、ヴィレームが自分を呼び戻してくれた。まるで、永い眠りから目覚めた気分だ。
フィオナはスッと立ち上がり、真っ直ぐと前を見据えると、足を踏み出した。
「姉さん?」
キョトンと首を傾げるヨハンの横を通り過ぎ様とすると、弟は呆然とした様子で手を伸ばしてきた。
パンッ‼︎ーー。
「ぇ……」
乾いた音が響いた。その理由は、フィオナがヨハンの手を叩いたからだ。その瞬間、弟は予想だにしていなかった様で、大きく目を見開き小さく声を洩らしそのまま固まった。驚き過ぎて動けないと言った所だろうか。フィオナはそれを横で確認しながら、素通りした。
フィオナは、浅い息を繰り返すヴィレームの前にしゃがみ込み両手で彼の手を握り締める。
「フィオ、ナ……」
「ヴィレーム様、ごめんなさい。愚かで莫迦な私を、赦して下さいますか」
フィオナの言葉に、ヴィレームは返事の代わりに力なく笑ってくれた。
「……」
「フィオ……?」
黙ってヴィレームを凝視する。そして、彼の手から自らの手をそっと離し、そのまま仮面へと手を伸ばすと、ゆっくりとそれを外した。
◆◆◆
「っ⁉︎」
パリンッー。
彼女が仮面を外した一瞬、何かが破裂する様な音が聞こえた。それは実際に響いた訳ではなく、感覚的なものだ。その後にジワジワと広がる何か……。
例えるならば、一雫が水面に落ちて波紋を描く感覚と似ている。これまでヴィレームが生きて来た中で感じた事のない程の膨大な魔力が広がっていくのを感じた。全身が粟立つ。ただそれは恐怖などの負からくるものではない。大き過ぎる力そのものへ身体が無意識反応しているだけだ。
ヴィレームが呆然とする中、仮面を外したフィオナが笑った。
あぁ、やっぱり可愛いな。
今はそれどころじゃないのにそんな呑気な事を考えてしまう。
フィオナを助ける事に必死過ぎて忘れていたが、全身が死ぬ程痛い。彼女の笑顔を見たら一気に気が抜けてしまい、思い出してしまった。腹などはもはや麻痺していて、痛いのかさえ分からないくらいだ。ただ血が垂れているのだけは感じる。極め付けの背中へ追撃で、そろそろ意識を保つのも辛くなってきた。
「ヴィレーム様」
不意にフィオナがヴィレームの頬に触れた。その瞬間、全身が熱くなるのを感じる。温かくて心地が良い。頬に触れられているだけなのに、まるで彼女に包み込まれているかの様だ。
ほんの一瞬、夢心地に浸っているとスッと彼女の手が離れていく。名残惜しく感じ無意識にその手を掴もうして身体を動かすと、そこで違和感に気が付いた。
「は……?」
余りの事に思わず変な声が出た。身体がおかしい……いや、おかしいと言うか全く痛くない。ヴィレームは目を見開き、ガバッと勢いよく身体を起こした。手足や腹などを確認するが、傷がない。
「フィオ……」
ヴィレームが困惑しながらフィオナを見遣ると、息を呑んだ。更に驚き、今度は心臓が止まったかと思った。何故なら……。
「フィオナ、その顔は……」
彼女の顔からは、アザが消えていた。
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