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何だか物凄く調子が狂う……。 好きな本、好きな食べ物、好きな楽曲に好きな色……フィオナが何が好きなのかヴィレームは根掘り葉掘り聞いてきた。 「青が……好きです」 答える義務も義理もないのに、彼が余りにも愉しそうに聞いてくるから思わず正直に答えてしまった。 「青か、良いね。君のその瞳と同じ色のドレスがあったら、絶対君に似合うよ」 「……さん、姉さん?大丈夫?気分でも悪いの?」 ヨハンの声にフィオナは我に返った。カップに手にしたまま、暫くぼうっとしていた様だ。淹れたての筈だったお茶は、温くなってしまっている。 「ずっと飲まずにカップの中身を見つめたままだったから……」 そうだった。今日は学院はお休みで、ヨハンが気晴らしにお茶をしようと昼間から部屋にやって来て、二人でお茶をしていたのだった。 「大丈夫よ……。ただ少し、考え事をしていただけだから」 「それなら良いけど……」 未だ心配そうにこちらを見ているヨハンに、フィオナは微笑するが、余り顔は見られたくないので俯き加減になる。 「そう言えば姉さん」 「どうしたの?」 「この前一緒にいた男の人、誰なの?」 瞬間フィオナは動揺してカップをひっくり返しそうになり、慌て両手で押さえた。息を吐く。 「男の人?」 「うん。放課後、廊下で一緒に歩いてたよね」 ヨハンはフィオナよりも二歳歳下で、弟もまた同じ学院に通っている。ただ登下校もそうだが、学院内ではなるべく接触しないようにしていた。優しい弟は気にしないと言ってくれるが、そうはいかない。自分の所為で大切な弟まで、奇異の目に晒されるのは嫌だった。故にヨハンにも学院内ではフィオナとは他人と思い過ごす様にと日頃から言っているのだ。因みに、一つ下の妹も学院に通っている。 「妙に仲良さげに見えたけど」 何かを探る様な視線を向けてくるヨハンに、フィオナは戸惑う。ヴィレームとは、あの日を境に毎日の様に図書室で会う様になった。ただその事を話していいものか悩む。 「別にたまたま一緒にいただけで仲が良い訳じゃ……」 「姉さん……余りこう言う事は言いたく無いんだけど。以前のあの男の事もあるし……やめた方がいいよ」 ヨハンを見れば、心配してくれているのだと分かる。だが語尾が妙に冷たく聞こえた。思わず息を呑む。 「ヨハン、違うの、本当に彼はそんなんじゃ……」 「僕、知ってるよ。たまたまなんかじゃないよね。毎日、昼休みにだって図書室でその男と会ってるよね」 驚いた。まさかヨハンが知っていたなんて……。一体何時見られていたのだろう。まるで気がつかなかった……。 それにしても、何時もの優しい弟じゃないみたいだ。フィオナは、射抜く様な視線にたじろいでしまう。 「もう、その男と会わないで」 「ヨハン……」 「僕は心配なんだ。もう姉さんにあんな思いをして欲しくない。寂しいなら、姉さんには僕がいるじゃないか」 「そ、そうよね……私にはヨハンがいてくれるものね」 そう返すとヨハンは花が咲いた様に笑った。昔から変わらない、無邪気で優しくて姉思いの弟だ。
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