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ヨハンには会わないでと言われたけど……。 「おはよう、フィオナ」 フィオナが登院するのを待ち構えていたヴィレームと早速出会してしまった。朝から眩しいくらいの爽やかな笑顔に、顔が熱く感じる気がした。 「おはよう、ございます……」 囁く様に挨拶を返すと、そのまま彼の横を素通りする。 「フィオナ?」 彼の声が背中越しに聞こえたが、フィオナが足を止める事はなかった。 これで、いいのよね……。 ヨハンの言う通り、またハンスの時の様になるのが落ちだ。期待なんてしてはダメだ。 私にはヨハンがいるもの。 優しい弟が側いてくれる。何時も自分の味方でいてくれるから、大丈夫。そもそも自分みたいな人間が高望みをするのが間違いなのだと、自分に言い聞かせた。 フィオナはその日、昼休みは図書室へは行かず人気のない裏庭で過ごした。放課後、授業が終わるや否や、足早に学院を後にした。その甲斐あってヴィレームに会う事はなかった。 そんな日々が半月程続いた。気持ちも少し落ちついた気がする。 何時も通り、授業を終え足早に馬車へと向かっていたフィオナの腕が不意に誰かに掴まれた。いきなりの出来事に小さな悲鳴を上げよろめく。 転んでしまうっ、と目を閉じるがいつになっても衝撃は来なかった。 「フィオナ」 自分を呼ぶ声に、恐る恐る目を開けるとそこにはヴィレームの顔があった。更に驚き身動ぐが、改めて今の自分の状況を把握して息を呑んだ。ヴィレームに抱き締められている。 「ごめん。大丈夫?」 謝罪をされ、フィオナの腕を引いた犯人がヴィレームだと理解した。申し訳なさそうに眉根を寄せている。だが、未だフィオナを抱き締めている彼の腕は、フィオナの身体を離すまいと力が篭ってるのが分かる。 「ヴィレーム、様……」 「君が僕を避けるから……ついね、強硬手段に出ちゃったんだ。本当にごめん」 ヴィレームも出会ってからまだそんなに経っていないのに、どうして彼はここまでするのだろう。不思議で仕方がない。まして自分の様な人間に、そうまでして構うなんて理解し難い。 「……フィオナ、君と話したい」 断れなかった。ヨハンと約束したのに……。違う、断りたくなかったのだ。フィオナが彼ともう一度話したかった。 彼に連れられて、馬車に乗る。その間もヴィレームはフィオナを離してはくれなかった。自らの膝の上にフィオナを座らせ、後ろから抱き締められている……もの凄く恥ずかしい。羞恥心に耐えられなくなり、身を捩り下りようと試みるも敢えなく失敗に終わった。 「ダメだよ。絶対離さないからね」 そう言われてしまい、フィオナは大人しく抱っこされ続ける事になった。
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