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コウキが兄のようになる前に止めることができてよかったと、初田は心の底から思う。
初田が中学一年の冬、両親が離婚した。
平也は父に、初田は母に引き取られたため、初田は嘉神姓から初田になった。
以降一度も会う機会がないまま月日が流れた。
研修医期間を終え、二十九になった年、平也が父を殺したのだ。
間違いなく父かどうか遺体確認を求められたとき、母は恐怖のあまり失神した。
医師の勉強で血を見るのにはなれているつもりだったが、それはあくまでも人間の形をして、生きているひとが相手だった。
フィギュアのように十以上のパーツに分かたれたそれが父親だとわかったのは、頭がたしかに父の物だったからだ。
連日ニュースで報道され、兄が外科医になっていたことを知った。
生き別れても同じ道を選ぶ……やはり双子なのだと、嫌な気持ちになった。
とはいえ平也の専攻は外科。初田は精神科。
そこだけが唯一の違いだ。
犯人でないのが確かとは言え、平也が父を殺害した理由に心あたりはないかと聴取されることになった。
相当な恨みがなければここまでのことはできないだろうというのが警察や、プロファイリングの結果らしい。あまりに安直すぎて、腹の中で笑った。人が人を殺すのはなにも恨みばかりではない。
初田は答えた。
「兄さんはただ、解剖してみたかったからやっただけだと思います。兄さんを引き取ったのが母なら、バラバラになっていたのは母だったでしょう。外科医を志したのもきっと、合法で人を切れるからだ」
初田が幼い頃虫をちぎって遊んだように、平也もまた、虫や生き物をちぎって遊んでいた。
父に引き取られた後、誰にもその遊びを咎められることなく成長し、純粋なシリアルキラーとなってしまった。
ノックの音がして、ネルが入ってくる。
「お茶が入りましたよー。今日はキーマンちゃんと昆布のおにぎりです」
「ありがとう、根津美さん」
ティーセットを受け取って、初田はコウキに微笑みかける。
「さあ、コウキくん。もっと紅茶をいかがかな?」
コウキは首を傾けてわずかに笑う。
「いただきます」
ケース1 中村コウキの場合 終
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