目をそらしても現実は変わらない

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(おれはまだ、普通でいたい)  障害者手帳の申請は任意であり強制ではないと初田は言っていた。  手帳の交付さえ受けなければ、健常者。  虎門の言葉に、ナナが声を荒らげる。 『は? ばっかじゃないの!? うちがいつ嫌だって言ったよ。そういう考え方された方がよっぽど迷惑だっての!』  電話が切れて、同時に玄関のチャイムが連打された。 「開けなさい馬鹿兄貴!」 「ま、待て待て待て!」  急いで玄関を開けると、角を生やさんばかりに怒り狂っているナナが立っていた。  兄の虎門と正反対でおしゃれに余念がなく、虎門が名前を知らないような大人女子向けアパレルブランドの服で身を固めている。  ナナは虎門の返事を聞かないうちから、パンプスを脱いで上がり込む。投げ出してあったレジ袋をめざとく見つけて、適当な場所に座りながら中身を取り出した。
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