目をそらしても現実は変わらない

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「これが病院の薬? 初田ハートクリニック・精神科」 「そ、そうだよ。そこが今日行った病院」 「ふうん。それで、なんでうちが兄貴の障害者手帳申請を嫌がるって話になるの?」  目尻をつり上げ、ナナは問い詰めてくる。昔から気が強い子で、兄として気圧されてばかりだ。兄妹喧嘩で勝てた試しがない。  ナナの言うことはきついが、いつも正論。すごく耳が痛い。  虎門はうつむいて、必死に説明する。 「嫌じゃ、ないか、普通。だって申請して手帳が交付されたら、おれはこれから先障碍者になるんだぞ。親父とおふくろにだって顔向けできない。仕事だって障碍者枠なんだぞ。テレビで見たことがある。障碍者は最低賃金を下回るようなところで働かされるのが現状だって。おれ、ナナの足かせになっちゃうだろ」  ナナは貯まっていたチラシの山の一番上にあったピザ屋のお知らせを筒にして、虎門の頭を叩いた。パコンと気の抜けた音が部屋に響く。 「バカ。障碍に偏見持っているのは兄貴自身じゃん。うちの働いている店にそういう枠採用の子が一人いるけど、自分にできる範囲で一生懸命働いてくれているよ」 「う……」  正論すぎて反論が思いつかなかった。  障害を持っていても立派に働いている人はいる。それはわかるが、どうしても長年持ってきた意識は簡単には拭えない。
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