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自分を知るということ
七夕祭を明日に控え、商店街はいつも以上に賑わっていた。
虎門は妹のナナと一緒に来た。
まず虎門の問診をして、そのあとナナと話をするという形になる。
「二週間経ちましたがどうでしたか。副作用があったなら量を調節するので遠慮無く言ってください」
「ええと……」
前回、六月いっぱいでバイトの契約が終わると言っていたから、今は仕事をしていない状態のはず。虎門は視線をさまよわせながら言葉を探す。
思考を整理するのに時間がかかるタイプなのだと察して、初田は言葉を待つ。
軽いノックのあと、ネルが入ってくる。
今日は特に暑いからアイスティーだ。シロップとミルクの小瓶も添えてある。
ネルはグラスをテーブルにのせてふわりと笑う。
「虎門さん、外は暑かったでしょう。おかわりもあるので、
気兼ねなく飲んでくださいね」
「あ、い、いただきます。根津美さん」
頬を赤らめながら、虎門はアイスティーにシロップを入れて口をつける。
初田もお礼を言ってアイスティーを飲む。
ネルが退室してから、虎門は扉の方を見ながらぽつりとつぶやく。
「根津美さん、かわいいなあ。彼氏いるのかな……。先生は知っていますか?」
「プライベートには干渉しないので知りません」
通院や買い物に行くときはそう言うし、友だちと遊びに行くときもそう言ってから家を出る。
普段食事の時にネルの話題に出るのは、だいたいアリスや花森といった友だちの話。あとは散歩中の犬や野良ネコの目撃情報。
ネルが初田に隠しているのでは無いかぎり、恋人はいないのではないかと推測する。
もうすぐ二十四歳になるから、想う人の一人くらいいても不思議では無い。
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