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我ながらキレイな謎かけだ。社長は俺が高度な謎かけを繰り出したことに興奮を禁じ得ないようにほくそ笑んだ。
「そのこころは!」
俺は、ひと呼吸おいて答えた。
「どちらも、カイニンです」
社長はオッホと嬉しそうに手を叩いた。
「おお! 妊娠することの別の言い方、『懐妊』と、仕事をクビになることの別の言い方の『解任』。なるほど、見事にかかっておるわい。お見事、お見事!」
満足気に拍手する社長のそばで、専務は社長程抜けてはいなかったようだ。俺の謎かけで気になる部分を呟いた。
「ん? 社長……『解任』……? えっ!? まさか!」
俺はあらためて社長の前に立ち、ビッと背筋を伸ばした。
「ただいま知らせが入りました。緊急株主総会で決議されたそうです。社長はクビです」
「え!?」
社長は目を丸くして俺の顔を見てきた。俺は覗き込むように社長と目を合わせて、ここぞとばかりにダメ押しした。
「解任です」
社長は燃え尽きたようにうなだれた。そして口から魂が抜けるかのごとく呟いた。
「ギャ、ギャフン……」
社長がギャフンと言った。ということは俺が新しい社長か?
同じことを思ったのだろう。専務は絶叫した。
「社長~!!」
無理もない。ずっと社長になることを夢見て頑張ってきた専務だ。俺みたいな若造に社長の座を奪われて、そのショックは想像し難い。
「さあ! 乗っ取り対策を進めていきましょう! ……、専務はどうします?」
俺の呼びかけに専務の体がピクっと動いた。専務は、悔しそうな、泣きそうな顔で俺を見つめてきた。
「し……、」
「し?」
「し……、」
「し?」
「新社長~~!!!」
おわり
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