怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 次に宮原健に対する聞き込み。宮原は小竹清の孫で、七味唐辛子専門店「門前堂(もんぜんどう)」の1人息子。頭に手拭いを巻いた作務衣(さむえ)姿で眼鏡をかけたその風貌は、いかにも生真面目な修行僧という印象だった。  「爺さんには昔からよく面倒を見てもらいました。別に悪い印象は持ってません」宮原は佐藤が座っている隣で仁王立ちのまま、表情も変えずに淡々と話す。「爺さんがこの寺であんな死に方をして、ものすごいショックです。誰があんなことをしたのか知りませんが、許せませんね。たぶんニコチン依存症患者の仕業でしょう」  「ニコチン依存症といえば、殺されたお爺さんも喫煙者だったんですよね? そのことについてはどう思ってるんですか?」と根岸が質問する。  「煙草を吸ってることが、あの爺さんの唯一嫌な点でした。煙草は身体に悪いんだから、もうやめようよ、俺は爺さんに長生きしてもらいたいんだよ、って何度も言ったんですけど、なかなかやめてくれなくて。ニコチン依存症というのは本当に恐ろしい病気ですね」  「なるほど。ところで君は、ある芸能人に対して殺害予告をして逮捕されてるんですよね? そのことについては反省してるんですか?」  「もちろん反省してます。もうあんなことは二度とやりません。ネットに匿名で書き込みをしても、すぐばれちゃうんですから。やりたいとも思いませんよ」  「ということは、直接ネットに匿名で書き込めなくても、あの芸能人には今でも殺意を持ってるのかな?」今度は海老名が質問する。  「持ってませんよ。俺にとっちゃ、あいつなんてもうどうでもいいんです」宮原は少し腹を立てながら言った。「最近はテレビも見てません。俗世間のことには関心を失いました」  「ほう……ところで、この寺の坊さんになると聞いて、爺さんは何て言ってたの?」  「初めはあまりいい顔をしませんでしたね。どうもこのお師匠様とは仲が悪かったですから。でもお師匠様が俺に声を掛けてくれなければ、俺の人生はもう終わってたんです。今の俺がいるのも、お師匠様のおかげですよ」  「そうですよ。こんなまだこれからの若者が、あんなことで人生を終わらせてしまうなんて、もったいないじゃないですか」と佐藤が話に割り込んできた。「まあ、あの爺さんの孫ではありますけど、煙草が大嫌いと聞きましたからね。これはまだ将来有望だと思って、うちで引き取ることにしたんですよ。ある意味で彼は、私とあの爺さんとの架け橋みたいなものです。こんな若者に人を殺せるわけがないじゃないですか。ましてや血のつながった実の祖父なら、なおさらです」
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