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「あんたのことを言ってるんじゃないのか、丸出のおっさん」
海老名が横目で丸出を見ながらささやいた。
「は? 私のことを言ってるんですか?」丸出の鈍い頭がやっと反応したようだ。
「そうです、あなたのことですよ!」佐藤が大声で叫ぶ。「私の前でパイプを口にするなんて、許せません! 煙草を吸われる方とは口も聞きたくない!」
「このパイプはおもちゃです」丸出が弁解する。「煙など出ませんよ。私は煙草を吸いませんから」
「じゃあ、なぜパイプなんかくわえてるんですか?」
「私はシャーロック・ホームズの生まれ変わりですぞ。パイプをくわえないシャーロック・ホームズなど考えられませんからな。これは文化の問題です」
「文化の問題だか何だか知りませんが、喫煙なんて文化はこの世に存在してはいけないんですよ。そんな文化が存在していたことなど、歴史からも消されねばなりません。たとえ煙草を吸わなくても、喫煙具を目にするだけで不愉快です。今すぐそのパイプをしまいなさい!」
「いや、それはできませんな。パイプの吸い口を噛んでないと落ち着かないもんで……名推理も思い浮かばなくなるんですよ」
「ならば、ここから出てってください」佐藤は毅然とした態度で言った。「今すぐ!」
「ま、そういうことだ、丸出のおっさん。さっさと出てってくれ」
海老名がしてやったり、と言わんばかりの笑顔で丸出に言った。
「だったらエビちゃんも一緒に出て行きましょう。エビちゃん、煙草吸うじゃないですか」と丸出が膨れっ面をしながら言う。
「吸ってません。(少なくとも今はな、と丸出に小声で)あんたがいない方が話を進めやすいんだから、さ、出てった出てった。とっととあのクリニックへ帰って、オネエ言葉のワトソン君とオカマでも掘り合うんだな」
丸出は根岸に目で助けを求めたが、根岸もその目付きだけで味方には付いてくれそうになかった。
「じゃあタクシー代くださいな。ここから家まで遠いんですから」
タクシー代は根岸が負担して(海老名は「俺は給料安いんだから1銭も出せねぇ」と言い訳)、丸出は悔しそうに寺から出て行った。
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