怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

17/48

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
 「なぜそこまで禁煙にこだわるんです? 煙草ってそんなに身体に悪いんですか?」と今度は海老名が質問した。  「そうですよ、煙草はとにかく身体に悪いんです。私は医者として医療現場に立って、多くの方が喫煙が原因で亡くなる姿を目にしてきました。それも喫煙者だけではない。身内に喫煙者がいることで、その受動喫煙で亡くなる方も大勢見てきました。あらゆる諸悪の根源は煙草ですよ。煙草は百害あって一利なし。これは煙草をこの世から根絶しない限り、根本的な問題は解決しないと思いましてね。だから私は声を大にして禁煙を訴えかけ続けてるんですよ。禁煙は愛です。私は人類愛の観点から禁煙を訴えてるんです。でもそれを理解しようとしない喫煙者が多くて。なかなか思うようには世の中いかないもんですな」と佐藤は次第に興奮して、その口調も熱弁になっていた。  「竹屋の親父さんは身体中にニコチンパッチを張り付けられてました。ニコチンパッチはいつも佐藤さんの手近にあるものなんですか?」  「この寺には1枚もないはずです。もっとも私は週に1回、近くの病院で禁煙外来をしてますから、病院へ行けばパッチのサンプルがあるはずですが。実際のパッチは薬局に置いてありますから、普段から持ち歩くこともありませんね。だいたいニコチンパッチなんて、そこら辺のドラッグストアでも売ってますよ。誰にでも簡単に手に入れることができます。ま、この世から煙草が根絶されれば、ニコチンパッチなんてものも世の中に必要ではなくなるでしょうな」  その後も佐藤節夫に対する聞き込みは続く。佐藤はソファにふんぞり返りながら、一貫して海老名たちには上から目線でものを言い続ける。いかにも俺の方が立場は上なんだぞ、と言わんばかりに。しかも異様なほど多弁で雄弁。その口調からも、かなり興奮していることがよくわかる。まるで小竹清の殺害を過剰な言葉で覆い隠すかのように。それも皮肉や嫌味ばかり。口から発する一言一言が棘を持っていて、聞く方としては耳の穴に引っ掻き傷が残りそうになるほど。海老名は段々腹が立ってきて、煙草を吸いたくなってきた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加