怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 続いて大熊勇介に対する聞き込み。大熊は宗岡晴香殺害容疑で、一時容疑者として浮上したこともある人物。大熊も宮原と同様の作務衣姿。これで眼鏡でもかければ、どっちが大熊でどっちが宮原なのか区別がつかないぐらい、2人はよく似ていた。  「晴香が殺されたことは、とてもショックでした」大熊も佐藤が座っている隣で仁王立ちのまま、表情を変えずに話をする。「もちろん俺が殺したわけではありません。でも晴香が殺されたことで、俺の命も奪われたようなもんですよ。俺の人生そのものが終わったような気がして……お師匠様に声をかけてもらえなかったら、今頃は晴香の後を追ってたでしょうね」  「大熊さんは殺害された小竹さんと血のつながりはないけど、小竹さんのことはどう思ってたんですか?」と根岸が質問した。  「いい人でしたよ。子供の頃から親しくしてくれました。だからここの境内であんな死に方をして、とても心が痛いです。殺人事件なんて1件でも起きてはならないことなのに、どうして俺の周りだけで2件も起きるんでしょうか? もちろん俺が殺したんじゃありませんよ。あの人にはいい思い出ばかりで、恨みなんか全くありませんから」  「あなたのお父さんは1年前に亡くなってますね。さらにお母さんも1カ月前に自殺してる。この3年の間にあなたの周りで4人もの方が亡くなってる……もちろんあなたのせいだと言いたいわけじゃないんだけど、そのことに関してはどうお考えなんですか?」  「親父は末期の癌でした。それからすぐにおふくろも鬱病を患いまして……本当に悲しいですよ、俺の周りで次から次へと人が死んでいくなんて……世の中は無常ではありますけど、なかなかそんな世の中に付いていけません。やっぱりみんな俺のせいなんでしょうかね?」  「いや、おまえのせいじゃない。悪いのは煙草だ」佐藤が大熊の方を向いて言った。「おまえのお父さんは煙草を吸ってた。お母さんも煙草を吸ってた。ついでにおまえのガールフレンドも煙草を吸ってたっていう話じゃないか。だからみんな煙草が悪いんだ。おまえのせいじゃない。おまえはお父さんやお母さんやガールフレンドに、煙草をやめるように説得してたんだろ? その心掛けだけでも立派だよ。悪いのは煙草。だからその悔しさをみんな煙草にぶつけなさい。それでおまえの煩悩も晴れるんだ」  「なるほど、大熊さんの周りで亡くなられた方々は、みんな喫煙者だったわけですか」海老名が言った。「あなたが煙草を嫌うようになったのも、周りが喫煙者だらけだったということなんですか、大熊さん」  それに対して、なぜか佐藤が返答した。  「そうですよ。ニコチン依存症患者に囲まれれば、誰だって煙草が嫌いになるのも当然じゃないですか」  「あの、佐藤さん、あなたに言ったんじゃなくて、大熊さんに質問してるんですけどね」海老名は佐藤に(ごう)を煮やして、ついそんなことを口走ってしまった。そのいら立ちは、もはや破裂寸前。「で、大熊さん……」
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