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前回の事件は、海老名の警官人生最大の屈辱だった。明らかに猟奇的な殺人事件なのに、被害者は自殺、そして猫によって死体が損壊された、ということにされてしまったのだ。この結果に納得のいかない海老名たちは極秘で捜査を続け、2名の犯人のうち1名を逮捕。だが警視庁本庁や検察によるどす黒い手によって、海老名たちによる真の捜査結果は闇に葬り去られてしまった。真実を歪めてしまうような組織の中で、これ以上仕事なんかできるか! 海老名は一時、本気で警官なんか辞めようと思ったぐらい。元々積もりに積もっていた上層部に対する不信感が、ますます厚くなってしまった。
「わかりましたよ、戸塚さん」海老名はつぶやくように言う。「でもそういった不平不満を少しでも和らげてくれる場所は、守るべきだと思うんですよ。俺たちにとっちゃ、喫煙所がそういう場所なんですからね。でもそれすら取り上げようとしてる奴がいる。それが腹立たしいんですよ」
「いっそのこと、煙草なんかやめてみたらどうだ、エビ」戸塚が言う。
「絶対にやめません。煙草やめろと言われると、余計に吸いたくなってくる。もし煙草やめるにしても、それは『煙草やめろ』と言う声が、この世から完全に消えてなくなった時になるんじゃないんですか? 俺にとって喫煙というのは、ある意味でファシズムに対する闘いみたいなもんですよ」
「ファシズムに対する闘いね……大袈裟だな。ま、煙草吸うなと言われると、余計に吸いたくなってくるのは俺も同じだけど」
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